今季放送中のドラマ「不適切にもほどがある!」。
この作品では、古田新太さん演ずる「犬島ゆずる」という登場人物が鼻にチューブを着けている様子が描かれています。
チューブの先にはキャスター付きの縦長バッグ。
これを見てすぐに医療用の酸素ボンベだとわかる方は、まだそう多くないのではないでしょうか。


実際このドラマの作り手も、在宅酸素療法の知識は"にわか仕込み"だったらしく、向かいに座る主人公がタバコを口に加え、とっさに犬島さんがライターに手を伸ばすというシーンがありました(2024年2月23日放送分)。
高濃度の酸素だという認識がない限り、火気厳禁だという意識も生まれようがありません。
厚生労働省「在宅酸素療法時は、たばこ等の火気の取扱いにご注意下さい

ただこのドラマは、いわゆるタイムスリップもの。
主人公は1986年ごろからタイムスリップしてきた?(筆者の知識こそ"にわか仕込み"で申し訳ありません!)設定のため、在宅酸素療法を知らないという演出は自然…というよりむしろ知っていたら不自然です。
1986年といえば、在宅酸素療法が一般に普及し始めて間もない頃なのです。(在宅酸素療法は1985年に保険適用されました)

さらに、主人公は犬島さんの義理の父だという設定ですから、犬島さんがライターに手を伸ばす行為も"決してやってはいけないけれど思わずやってしまう不注意"として描くぶんには妥当だといえます。
筆者も先日、酸素吸入中の方が火のついたガスコンロに近づいてしまう場面を目の当たりにしました。
「酸素」だという認識があっても、そこから「燃える」は直接的にイメージしづらいものです。
言われない限りは。

結局このシーンに足りなかったのは、酸素を吸入する方の近くでは火気厳禁です、というたった一つのテロップだったのかもしれません。

ところで犬島さんはなぜ酸素吸入が必要になったのでしょうか?

酸素吸入が必要になる主な原因は慢性呼吸不全です。
慢性呼吸不全を引き起こす病気には肺気腫や間質性肺炎などがありますが、実は「酸素」を直接的にイメージしにくいものも含まれています。
心臓血管系の異常などです。
酸素は心臓や血管を使って体中に送られているという当たり前の事実もまた、言われない限り意識に上りません。
日本心臓リハビリテーション学会「心臓病の治療について – その他の治療 Q.1

ドラマには「心臓の手術をしたばかり」というセリフがありましたので、犬島さんが酸素吸入を必要とする理由もこれではないかと推測できる一方、こういうケースもあり得ます。
もともとあった呼吸不全が心臓の病を引き起こしたというケースです。
さてその真相は?