手術室がある階の廊下に用意されていたギャッチベットに寝ろと言われ、手術室前の準備室?に運ばれた。また音楽がかかっていたが、結構ノリノリの曲だった。


ナースがやって来て、自己紹介し、血圧器を取り付けた。そのまま横になっていると、私のデータが出ている画面の前に立ち、クネクネと踊り出したバカ女がいた。いくら医者やナースにとって手術が日常茶飯事のことでも、手術を要する患者のデータを見ながら、クラブにいるかのようにクネクネ踊る女がどこにいる!そこにいたわけだが、一気に私は不安になった。


そしたら、「Je suis médecin(私は医者です)」と言って私のベットにやってきた。この世の終わりかと思ったが、前に夫から聞いていた、フランスにはドクターではないけれど、一般の看護師とは違って医者のような治療が一部できるのがいると。


私は、手術をする担当医は前回と同じだと聞いていたので、上看護師を勝手に医者だと言い出した女だと思って、へえと言った。


話が終わって去ろうとしたので、私は「麻酔をする前に麻酔科医と話したい。」と伝えたら、「私が麻酔科医よ。今回の手術は前回よりもっと簡単なものだから。」と言った。フランス人がバカンスに行って猛烈に陽に焼けた肌の色か、南米のアルゼンチンなどの出身かと思える皮膚の色の女だった。


前回は、麻酔科医と2人のナースが本当に素晴らしくて私の不安を取り除いてくれたのだが、今回はテンション低いナース1人と踊り出した麻酔科医。ベットの上で、血圧器が取り付けられて、私は正にまな板の上の鯉となり、悪い予感しかなかった。待っている間、時計ばかり見ていた。


その麻酔科医が戻ってきて、「ここに腕をおいて」と言って、麻酔をすることになった。前回は、手際の良い麻酔科医が、私が痛みに弱いかどうかとかどう言う麻酔を希望するか丁寧に聞いてくれて、2人で話し合った後は手際よくやってくれた。一瞬痛みはあったが、怖いと言う強い感情はなかった。


このクネクネ女は3度も針を入れ替え?毎回針をグリグリやって、(私は麻酔のことを何も知らないから、それが絶対おかしいとは言えないが、)前回の記憶と大きく異なる体験に正直、コイツ本当に免許あるのだろうか結構年は言ってそうなのに新人なのかとまた恐怖を感じた。


それから30分して、麻酔が効いて指の感覚がなくなったことを実感した。


18時5分頃、「私が2番目のナースです。」と言った看護師が私のベットを押して手術室へ入った。


入る前に廊下にいた男が「これが今日最後の患者だな。」と言い、看護師が「そうよ。」と言った。


ギャッチベットから手術台へ移動する時に、麻酔が効いている腕が心配でそちらに気がいっていたが、私の頭の後ろにとても若そうな男が立っていたのが一瞬見えた。


担当医が「元気か?」とフランス語で言うので、私はフランス語ができると勘違いされたままでは困ると、あえて英語で返事した。「そうだった!英語の患者だった。」と医者と看護師が言った。


前回はきっちり自分の名前を名乗った人間、2人のナースと医者と麻酔科医だけだった。ビデオも撮っていた。


私はまたカバーをかけられた。前回は2人のナースが、話しかけてくれたり、様子を見に来て、足が冷たいと足用の暖房を付けてくれたり心遣いがとても胸に響き有り難かった。この2度目は誰1人私の様子を確認する者がいなかった。手術中、医者はずっと「C’est xxx, C’estxxx」と説明していた。


日本の場合はわからないけれど、前にいた国では、インターンが入って良いかどうか、と言う事前のアンケートがあったし、嫌だったけれど誰でも見なきゃ学べないのでオッケーにした出産の時にインターンがいたけれど、しっかり紹介をしてくれたし、必ず医者がやると誓ってくれた。


しかし、この日はインターンがいることも事前に言われず、一言も紹介がなかった。


その上、私にとっては本当に信じられないことなどだが、3度も大笑いする声が聞こえたのだ。手術中に。


手術中に何を大笑いすることがあるのだろう。全く見えないブルーのカバーの向こう側で一体何をやっているのだろう。何を大笑いすることがあるのだろう。


あるとすれば、医者がこうやってと説明し、ド下手なインターンがやって、それを皆んなが見て笑っている。私はそれしか思いつかなかった。恐怖で1人で泣いていた。「止めろ!」と叫びたくなったけど、それでおかしな所を切られても困るから私はただただ固まって泣いていたのだ。それでも大笑いしている人には届かない。1度だって様子を見にくる者はいなかった。


カバーが取られて泣いていた私に医者がギョッとしていた。「何を泣いている。もう終わったことだ。」と言った。「抜いた金属を見るか?」と言った。きっと血が付いているだろう金属を見て何かほっとできることでもあると言うのか。「必要ない」と言うと、縫った指を見せてきた。私は元々病院も傷も血もダメな女だから、心の中でうぎゃ〜となった。とんでもない縫いっぷり。これは間違いなくインターンだと思った。(今日、消毒のナースに見せたらナースも夫も綺麗だと言っていた)



私は「この手術は、あなたがやりましたか?このインターンがやったのですか?」と聞いたら、どっちにしたって返事は決まっている。口が裂けてもインターンがやったよとは言えない。「もちろん、私がやったよ、説明していただけだ。」と言った。


車椅子に乗せられて外へ運ばれた時もナース2に「本当のあの医者がやったのですか?」と同じことを聞いた。「あの子は医者じゃない。若すぎるでしょう。手術はできない。」と言った。


その後部屋まで運ぶ男がやってきて、部屋の近くで夫と息子を見かけた。夫が泣いている私を心配して何があったか、痛みでもあったのかと聞いた。


その後血圧を測りに別のナースが個室にやってきて、泣いている私にビックリして、夫が説明した。そしたら、「そんなことがあったなんて、それは本当にストレスですよ。ただでさえ、言葉の心配もあったはずなのに。あってはいけないことです。本当にごめんなさい。」と真摯に謝ってくれた。


ナースが医者が必要書類を用意していないので、会いに行くと言って出て行ったのだが、「もういなかった。必要書類は、秘書に言ってメールで送らせます。」と言った。そう、手術前も後もレントゲンすら撮る指示も出していないで帰って行った。


毎回同じような手術していても必要書類も出せない医者。前回は麻酔科医と2人のナースがとても良かったが、この医者はダメだ。


「この酷すぎる医療レベル、本当におかしい。手術中に大笑いするなんて本当に信じられない。怖すぎた。夫が不要な無料の個室を承諾したから付いてきたことなんじゃないか」と夫に言うと、夫は「インターンがやったんではなくて医者がやってたけど、冗談言って笑ってたんだろう。部屋は関係ないだろう。」と言うけど、「医者がやったけど、冗談言ってただけなのね。」なんて思えないし、夫の言葉で気持ちが安らぐことはない。手術中に冗談って?しかも冗談言っているかどうかくらい私でもわかるはずだが、そんな声は聞こえなかった。ずっと医者が説明していただけなのに、大笑いが3度も起こった。


今でもショック過ぎてメンタルがやられている。この国ではやっぱり図太くないと生きていけないと思う。耐えられない。