土曜日の午後、仕事を終えた左衛門佐は船着き場でじっと浜名湖の湖面を見つめていた。

ふと顔を上げると、いつの間に来たのか顔馴染みの流し釣り師のじいさんが近づいてきた。

左衛門佐の顔を見るなり、

 

「こないだのハチマル、重さどれぐらいあった?」

 

と聞いてきた。

左衛門佐のすぐ近くで竿を出していたのでハチマルを獲る一部始終を目撃していたのだろう。

やはり気になったようだ。

 

「フィッシュグリップ計測で約7kgってトコ。」

 

左衛門佐が答えると「ほ~、そりゃ凄いな。」と、驚いたような顔をした。

ちなみにこのハチマルはどうするか少し考えたのだが産卵期が近いこともあり、やはりリリースした。

ヒラメは産卵期間中、メスは何度も産卵するので多い個体だと産卵回数は20回に及ぶこともある。

あれほど巨大なメスならば産卵期間中に放出する卵の総数は3000万粒にも達するだろう。

針の掛かりどころは抜群に良かったのですぐにでも餌を食えるぐらい回復しているはず。

ぜひ今年も産卵に参加していっぱい卵を産んで欲しいね。

 

「今から出るの?」

 

「まさか。見・て・る・だ・け~。」

 

「だよね。」

 

流石にこの潮周りでは船出しても敗北は目に見えている。

そう言うアンタも船出す気なんてサラサラ無いんでしょ。

 

この御仁は本職がアジのサビキ釣り師の左衛門佐と違い、ヒラメ・マゴチ狙いの流し釣りしかやらない、ガチのフラットフィッシュハンターだ。

既に仕事をリタイアして釣り三昧の日々を送っているので年間に獲ってくるヒラメ・マゴチの総数は左衛門佐よりも多く、もしかしたら年間300枚(本)ぐらいは獲ってきているんじゃないかと思う。

名人、達人、凄腕、強者が揃う魔境・浜名湖の流し釣り師の中でもかなり腕の立つ達人である。

 

「やるなら月曜日の午後だな。」

 

「んだね。」

 

どうやらフラットハンターの考えることは同じようだ。

 

そして月曜日の午後。

仕事を終えた左衛門佐、そそくさと準備をして家を出る。

雨予報なのでカッパで完全防備。

左衛門佐が当日も仕事、翌日も仕事なのにカッパを着てまで出撃するなんて異例中の異例だがローライトだし、なんとなくまたデカイのが釣れそうな気がしたのだ。

 

重装備で船着き場に向かうとじいさんが出航準備をしていた。

出撃する時間まで被るとか。www

ある程度行きつくとこまで行きつくとホント行動パターンが一緒。

左衛門佐が、「今日の潮は絶対に釣れる!!」と思って出撃するときはほぼ100%この御仁の船も浮いてる。

まあそれぐらい浜名湖のフラットフィッシュの必勝パターンって確定パターンなんだよね。

2年ぐらい前から流し釣り始めて左衛門流を勉強中のご近所さんも出撃するみたい。

みんな雨なのにやる気あるな。

 

ポイントに到着したがまだ潮がヌルイ。

とりあえず流し始めるが北東の風、やっぱめっさやり辛い!!

おまけにこないだと違って同じぐらいのヌルさでも仕掛けが上手く底に入らない。

仕掛けが底に入らず、先行しすぎたり逆に引っ張って重く感じるときは上手く流れてない証拠。

案の定2回流してもアタリ無し。

やっぱ東よりの風は厳しいな・・・と早くもめげ始めた3流し目、

そろそろ船入れ直すか・・・とピックアップしようと5回リールを巻き、しばしステイ、さらに5回巻いてまたステイしたところでいきなり”ゴン!!”と来た。

 

ヒラメはピックアップの時に餌に気付いて追いかけてくることがよくあるので左衛門佐はすぐにぐるぐるリールを巻いてピックアップせず、必ず5回巻いて停止。さらに5回巻いて停止してから上げるようにしている。

かなり昔の話だがまだぐるぐる巻いてピックしていた頃、ロクマル近い大きなヒラメが水面まで餌を追いかけてきたことがあり、それを逃して後悔して以来、必ずこのやり方をするようになった。

それ以降、実際このやり方でピックアップ時にかなりの数のヒラメを仕留めている。(このやり方でナナマルも獲った)

 

すぐにクラッチオフ。

左手の親指でスプールをサミングしながら絶妙なテンションでラインを送り込んでヒラメを底に戻す。

ゴツ・・・ゴツ!!と2回ほど餌を咥え直す感触が伝わってきたがすぐに静かになった。

・・・もう口の中に餌を放り込んだな。

ラインテンションMAXになるのを待って”ガツン!!”といくといい感じで竿が弧を描く。

でも期待した重さは無い。

・・・金太郎飴か。

 

一定のテンションで巻いてくるといつもの見慣れたサイズが浮いてきた。

小さいけどとりあえず1枚目。ボ〇ズ回避。

 

 

よし、次行こう。

潮効いてきたら食い立つかな?という期待と裏腹にまさかの沈黙。

・・・もしかして今日、外した??

 

ローライトで潮は適度なのに釣れない。

というか仕掛けが上手く底に入らない。

風は弱いが最悪の風向きでおまけに上潮と底潮が上手く噛み合ってない。

痺れを切らして風向きが少しマシなポイントへ移動。

すぐにギリ40ぐらいのと44ぐらいのを獲って良し!!と思ったけど後が続かない。

 

 

ど~するかな・・・と思っていたらズモモ・・・と重くなった。

 

??・・・魚・・・だよな??

 

ガツン!!といくと一瞬根掛かりかと思ったがズズッ・・・と動いた。

よし、魚だ。デカイ。

大きく竿を立てて魚を寄せようとするが・・・寄って来ない。

ジリジリとドラグを引き出される。

そ、そんな・・・バカな・・・。

 

大きく弧を描くアナリスターヒラメ、MH240。

しかし・・・何か変だ。

首・・・振らねぇ。。。

と思ったら底に張り付いて動かなくなった。

あ”~~~、そういうコトかぁーーー!!

一瞬またハチマル来たかと思って焦ったぞ。

まあそんな上手くいくワケないわな。

 

しかしそこからが大変!!

真上に引き揚げないと上がらないのでエンジン使って右往左往しながらサルベージするけどまあ重い!!

10分以上かかってようやく浮いてきたのは予想通り軽くメーターオーバーのアカエイ。

orz・・・。

 

この超絶ビッグファイトにより左腕が疲労で完全にクラッシュ!!

この日も強制終了となりました、トホホ・・・。

 

 

あぁ・・・、ダメだったぁ~~~。。。

ローライトだし、絶対に釣れると思ったんだけどなぁ。。。

雨の中、カッパ着てまで出撃したのに釣れないとマジで凹むけどまあ、でもこれが魚釣りなんだよね。。。

こんなふうにボコられて悔しいという気持ちがまた釣り人をフィールドへと向かわせるのだし、そうやって諦めずに出撃するからこそ、こないだのハチマルみたいな物凄い魚に出会えるチャンスも巡ってくる。

そしてまたそんな魚に出会いたい、”夢よもう一度”って思う気持ちもまたフィールドに向かわせるモチベーションになる。

そういった思いがある限り身体の動く間は左衛門佐が釣りを辞めることは無いだろう。

 

そういや、じいさんとご近所さんの釣果はどうだったんだろう。

左衛門佐が帰った後も粘ってたみたいだけど・・・。

少なくとも見てた限りではヒットシーンは見なかったけど釣れたのかな・・・?