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ただ出来事の整理のために。

誰にも話せない全ての自分を自分のために文章に落とし込む作業。

付き合いは大学の頃から。
所属していた演劇サークル部長の後輩。

音響の手伝いに来たのが知り合うきっかけ。
なんだか最近よく話しかけられるなと思っていたら、ある日好きだと告白された。


「好き」
「愛してる」
「結婚したい」


を一日に一セットは言う人だった。
私はそれを口に出すのが恥ずかしくて。

たぶん不自然な笑顔を返すばかりだったんだと思う。

それでも旦那はずっと言い続けていた。
そんな旦那が好きだった。


当時ひどく男性恐怖症で、2人っきりになるたびに意思とは関係なく震えたり怯えたりしていたんだけど、旦那だけはいつしか平気になっていた。


ケンカはすれど、ごくごく平和に過ごしていた。


二年後。
旦那は突然。

「前の彼女にやり直したいって言われた。おまえとどっちが幸せになれるか考えたいから、1ヶ月待っててほしい」

と言ってきた。


知らない間にその子のうちに泊りにいって、性的接触があったこともその時に聞いた。


今思えば些細なことなのに、その時は自分の心の中だけで
旦那を責め自分を責め相手の女を責め。
泣いて泣いてどうしていいかわからなくて壊れて首を括った。



結局旦那は向こうにはいかず、私たちは今まで通り。

でも私はいつまでたっても旦那を疑うことをやめられなかった。 許したと言って、信用しきれず不安になって旦那を責める自分が嫌だった。


それから二年苦しんで、逃げた。

自分を同じ立場に貶めたら、旦那を責めずに済むんだと、適当な相手と寝た。


楽になった。


代償として、自分の中のセックスの意味が変わった。


それは、今も変わらず。

何かを諦めるために、旦那の傍にいようとしたのかもしれない。

でも、私の体は自分が思うよりも快楽にだらしなかったようで。



彼との行為は今まで体験してきたものと次元が違っていた。

セックスに対して夢見ていて、得られなくて、諦めて。


こんな程度のものだと見切りをつけていたモノクロの世界が一気に色彩を帯びたようだった。


抱き合うだけで震え上がるほど悦かったんだ。



気持ちを置き去りにしてもなお、その圧倒的な波にのまれたのだから。

恐ろしく体の相性がよかったんだろう。



旦那との8年間で完全に飢えきっていた体。

付き合っていた頃から、次こそは溺れるようなセックスができるだろうかと思い、破れ。

それを何年も重ねていくうちに、いつしか旦那が果てることのみを目的にした行為にすり替わっていた。



誘惑に私はあっさりと堕ちていく。


二度目、三度目。

繰り返すほど面倒なことになっていくことは容易に想像がつくのに、歯止めはきかなかった。



さらに面倒なことに、彼と私はよく似た人間だった。

話せば話すほど見つかる共通点。


好きなもの。

大事にしていること。

ある出来事に対して思うこと。

周りに気を遣いすぎて自滅するところ。

人にちょっかいをだすのが好きなところ。

かまってもらえないとすぐ寂しくなるところ。

付き合う相手に求めること。


会話をすればするほど相手にのめりこんでいく。



人生観を話し、理解してもらって。

賛同されたり、叱咤激励されたり。



今まで自分の深い部分を人に話すことなんてなかったのに。

聞いてもらいたくて、ぼろぼろぼろ口からこぼれる。


聞いてもらってああよかったなと。

わかってもらえてうれしいなと。



同じものをみて、感動し。

同じ瞬間に、笑う。


これがこんなに楽しくて、充実してる日々だと初めて気がついた。




のめりこむ速度は一層加速していく。

数ヵ月後の飲み会で向かいの席になった。

何を話したかは覚えていない。かといって記憶を無くすほど呑んでいたわけではない。


特別でない会話を交わしただけのことだ。



彼がふと席を立ったとき、私は後を追った。

皆からの死角に入った瞬間。唇を奪った。


そこに愛しさはなかった。

ただ、安易にキスさせてくれる相手が近くにいたからしただけのことだった。

彼と触れ合いたいわけではなく、唇の感触に飢えていただけ。


酒に酔うと、堕ちていく感覚が気持ちいいほどに楽しいことがある。

軽い軽い理性が、酒が入って混じって混じりきらなくて。

水と油のように気持ち悪く頭の中でたゆたう。

ゆるいゆるうい重力にまかせ。

自分という線引きを曖昧にしながらどこかへ沈んでいく感覚を。


手放すことなんかできずに、深く深くキスをした。




これが彼にとっての決定打。

手を引かれ、皆から逃げるように駅と反対方向へ。


気がつけばベッドで抱き合っていた。



行為の間、ごめんね。ごめんね。と私は何度も繰り返していたそうだ。


これは私にとっては快楽を伴う最低の自傷行為でしかなく。

そのために彼の好意を利用したにすぎない。

なけなしの良心みたいなものが謝らずにいられなかったんだろう。

相手にとって意味をなさないのに。



せめて二度目はするまいと日付も変わったタクシーの中、働かない頭で何度も思った。