既に旧聞に属することで恐縮ですが、週刊コミックバンチ(新潮社)に連載中の「コンシェルジュ」(原作:いしぜきひでゆき 漫画:藤栄道彦)で、2006年に第48話「野菜戦争・前編」第49話「野菜戦争・後編」が掲載された時、主にネット上では大きな話題になりました。
ご存じの方は多いと思いますが、これが強烈な「美味しんぼ」に対するアンチテーゼだったからです。
コンシェルジュ 8 (BUNCH COMICS)/いしぜき ひでゆき
![](https://img-proxy.blog-video.jp/images?url=http%3A%2F%2Fecx.images-amazon.com%2Fimages%2FI%2F61zxD9pieyL._SL160_.jpg)
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その第48話、第49話が収められている、コミックス第8巻です。
「美味しんぼ」の原作者や登場人物を彷彿とさせる漫画家を登場させるなど、「美味しんぼに対するアンチテーゼ」であることは確かなのですが、作中で語られる事柄は単に一作品に対する批判に止まることはなく、食や食品の安全を考える上で普遍的な重要事項となっています。
例えば、コミックス第8巻の94ページで、作者は主要登場人物の一人・コンシェルジュの惣田純菜に「(我々が無農薬野菜も有機栽培野菜も使っていないのは)値段が高めなのに味がたいして変わらないから」と語らせています。
2009年にFSAが「オーガニック食品と通常食品には、含有栄養素にも健康への寄与においても、大きな違いはない」という報告書を出しました。それによって、イギリスを中心に、「オーガニックパニック」と言われる大論争が巻き起こりました(どういうわけか、日本のメディアはほとんど取り上げませんでしたが)。
・オーガニック食品と通常食品の栄養価に大きな違いはない?
・FSAのオーガニック食品についての報告書に対する反論
・オーガニック食品の方が良いってわけじゃあないよ
・「神経性正しい食事病」が増加している
昨年、チャールズ皇太子の不穏当な発言(「オーガニック食品の方が良いってわけじゃあないよ」を参照)まで引き出させたイギリスのオーガニックパニックの誘因となったことを、2006年に「コンシェルジュ」では作中で粛々と語っていたのです。
また、同巻の114ページでは、カビ毒「アフラトキシン」に関して言及しています。
私は修士時代に発がん物質のジエチルニトロソアミンという物質を実験に使用していましたが、その時に「地上最強の発がん物質はカビ毒のアフラトキシンB-1である」と教わりました。
農薬根絶論者は、毒性学的に問題のない量の防カビ剤と、カビが産生する最強の発がん物質との、どちらを選ぶのでしょうか。
さらに同巻の117ページで、コンシェルジュの才媛・鬼塚小姫はこう告げます。
「単刀直入に言えば 自然そのものの野菜はまずいんです」
「食べておいしい現在の野菜は みな農薬の力を借りて作り出されるもの」
その通りなのです。
自然界の植物は、どれ一つとして「私を食べて」などとは言っていないのです。むしろ、食べられまいとして毒物を産生し、それを放出したり貯め込んだりしているのです。
植物のほとんどが、動物に対して毒性を持つ物質を含んでいます。植物性アルカロイドなど、ほとんどが「毒物」と言えます。それが「毒」として作用しないのは、量が少ないからです。
「量が少ないから毒にはならない」これは、植物が元々含んでいるアルカロイドでも、人間が使用する農薬でも、同じ事なのです。
さらに、植物に含まれる成分の多くが未知のものであり、アルカロイドの量も環境条件によって変化するのに対し、農薬成分は毒性を示す量が分かっており、人為的にコントロールすることが可能です。
コントロール出来るものと出来ないもの、どちらがより安全かは、自明であると言えるでしょう。
このように、我々消費者が知らずに「思い込んでいる安全神話」に対し、この作品では正確な科学データと論理を持って、「本当に正しい食品の安全とは何か」ということを告げてくれているのです。
この「コンシェルジュ」、グルメ漫画ではないのですよ。それなのに、どんなグルメ漫画よりも正しく、消費者に対して有用なことを作品に込めているのです。
![$座布団亭主の色々ヲタヲタなブログ-2010040722170000.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20100407/22/zabutonteisyu924/53/b3/j/t02200293_0480064010486653136.jpg?caw=800)
コミックス第8巻の巻末には、「野菜戦争 終結記念コラム」と題して、いかに現代のコントロールされた農薬使用基準が厳格であるか、ポジティブリスト制度とはどのようなものであるか、現実の残留農薬のレベルはどうなのか、などについて記しています。
特記すべきは、ここでADI(1日許容摂取量)に関しても言及しているという点です。
このADIは、以前に拙ブログで紹介した畝山智香子さんの著書「ほんとうの食の安全を考える」においても、大変重要な概念であるとされているのです。
・食品関係での極めつきの良書:畝山智香子 著『ほんとうの「食の安全」を考える』
・食品中の残留農薬の実態
コンシェルジュ 10 (BUNCH COMICS)/いしぜき ひでゆき
![](https://img-proxy.blog-video.jp/images?url=http%3A%2F%2Fecx.images-amazon.com%2Fimages%2FI%2F61Ao87NUZHL._SL160_.jpg)
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さて、「コンシェルジュ」では、コミックス第10巻に収められている第62話「和食の神髄」において、「フードファディズム」に関しても言及しています。
少々乱暴な括り方ですが、「フードファディズム」とは、滅多矢鱈と(ほとんど感情的に)調味料などを忌避し、自然食材ばかりを礼賛する、といった姿勢です。
一つ間違えると感情的な反発を被りかねないこうした事項に対しても、正しい知識を示そうとする作品の姿勢は、大変素晴らしいものであると私は感じています。
重ねて申し上げますが、この「コンシェルジュ」は、グルメ漫画ではありません。ホテルの「何でもコーディネーター」役の「コンシェルジュ」を題材にした漫画です。
エンターテイメントとして見ても、一級品の面白さです。本記事とは無関係であっても、ご一読をお勧めしたい作品です。
最後に、第49話で作者が鬼塚小姫に語らせた言葉で、本稿を締めたいと思います。
「自然の恵みなどという言葉がありますが 他者のために存在している命など この世界にひとつだってありません」
「ですから私達は
感謝を込めて『いただきます』と言うのです」
ご存じの方は多いと思いますが、これが強烈な「美味しんぼ」に対するアンチテーゼだったからです。
コンシェルジュ 8 (BUNCH COMICS)/いしぜき ひでゆき
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その第48話、第49話が収められている、コミックス第8巻です。
「美味しんぼ」の原作者や登場人物を彷彿とさせる漫画家を登場させるなど、「美味しんぼに対するアンチテーゼ」であることは確かなのですが、作中で語られる事柄は単に一作品に対する批判に止まることはなく、食や食品の安全を考える上で普遍的な重要事項となっています。
例えば、コミックス第8巻の94ページで、作者は主要登場人物の一人・コンシェルジュの惣田純菜に「(我々が無農薬野菜も有機栽培野菜も使っていないのは)値段が高めなのに味がたいして変わらないから」と語らせています。
2009年にFSAが「オーガニック食品と通常食品には、含有栄養素にも健康への寄与においても、大きな違いはない」という報告書を出しました。それによって、イギリスを中心に、「オーガニックパニック」と言われる大論争が巻き起こりました(どういうわけか、日本のメディアはほとんど取り上げませんでしたが)。
・オーガニック食品と通常食品の栄養価に大きな違いはない?
・FSAのオーガニック食品についての報告書に対する反論
・オーガニック食品の方が良いってわけじゃあないよ
・「神経性正しい食事病」が増加している
昨年、チャールズ皇太子の不穏当な発言(「オーガニック食品の方が良いってわけじゃあないよ」を参照)まで引き出させたイギリスのオーガニックパニックの誘因となったことを、2006年に「コンシェルジュ」では作中で粛々と語っていたのです。
また、同巻の114ページでは、カビ毒「アフラトキシン」に関して言及しています。
私は修士時代に発がん物質のジエチルニトロソアミンという物質を実験に使用していましたが、その時に「地上最強の発がん物質はカビ毒のアフラトキシンB-1である」と教わりました。
農薬根絶論者は、毒性学的に問題のない量の防カビ剤と、カビが産生する最強の発がん物質との、どちらを選ぶのでしょうか。
さらに同巻の117ページで、コンシェルジュの才媛・鬼塚小姫はこう告げます。
「単刀直入に言えば 自然そのものの野菜はまずいんです」
「食べておいしい現在の野菜は みな農薬の力を借りて作り出されるもの」
その通りなのです。
自然界の植物は、どれ一つとして「私を食べて」などとは言っていないのです。むしろ、食べられまいとして毒物を産生し、それを放出したり貯め込んだりしているのです。
植物のほとんどが、動物に対して毒性を持つ物質を含んでいます。植物性アルカロイドなど、ほとんどが「毒物」と言えます。それが「毒」として作用しないのは、量が少ないからです。
「量が少ないから毒にはならない」これは、植物が元々含んでいるアルカロイドでも、人間が使用する農薬でも、同じ事なのです。
さらに、植物に含まれる成分の多くが未知のものであり、アルカロイドの量も環境条件によって変化するのに対し、農薬成分は毒性を示す量が分かっており、人為的にコントロールすることが可能です。
コントロール出来るものと出来ないもの、どちらがより安全かは、自明であると言えるでしょう。
このように、我々消費者が知らずに「思い込んでいる安全神話」に対し、この作品では正確な科学データと論理を持って、「本当に正しい食品の安全とは何か」ということを告げてくれているのです。
この「コンシェルジュ」、グルメ漫画ではないのですよ。それなのに、どんなグルメ漫画よりも正しく、消費者に対して有用なことを作品に込めているのです。
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コミックス第8巻の巻末には、「野菜戦争 終結記念コラム」と題して、いかに現代のコントロールされた農薬使用基準が厳格であるか、ポジティブリスト制度とはどのようなものであるか、現実の残留農薬のレベルはどうなのか、などについて記しています。
特記すべきは、ここでADI(1日許容摂取量)に関しても言及しているという点です。
このADIは、以前に拙ブログで紹介した畝山智香子さんの著書「ほんとうの食の安全を考える」においても、大変重要な概念であるとされているのです。
・食品関係での極めつきの良書:畝山智香子 著『ほんとうの「食の安全」を考える』
・食品中の残留農薬の実態
コンシェルジュ 10 (BUNCH COMICS)/いしぜき ひでゆき
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少々乱暴な括り方ですが、「フードファディズム」とは、滅多矢鱈と(ほとんど感情的に)調味料などを忌避し、自然食材ばかりを礼賛する、といった姿勢です。
一つ間違えると感情的な反発を被りかねないこうした事項に対しても、正しい知識を示そうとする作品の姿勢は、大変素晴らしいものであると私は感じています。
重ねて申し上げますが、この「コンシェルジュ」は、グルメ漫画ではありません。ホテルの「何でもコーディネーター」役の「コンシェルジュ」を題材にした漫画です。
エンターテイメントとして見ても、一級品の面白さです。本記事とは無関係であっても、ご一読をお勧めしたい作品です。
最後に、第49話で作者が鬼塚小姫に語らせた言葉で、本稿を締めたいと思います。
「自然の恵みなどという言葉がありますが 他者のために存在している命など この世界にひとつだってありません」
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