リフレイン 透明な光 8 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

季節は過ぎて、

桜の木も新緑が眩しい時期になった。

成瀬さんに会ってから

すでに1月以上がたっているが、

まだ何も言ってこない。

こちらから何かアプローチをとも思ったが、

実際のところ、そんな暇はなかった。

 

俺は古くから付き合いのある老舗ホテルの

新社長就任イベントの企画に追われていた。

現社長は親父の代からの得意先で、

何か企画する際は

いつもうちに依頼してくれていた

今までは親父が仕切っていたが、

向こうも代替わりして

息子が新社長になるのを機会に

今回は俺がすべての責任者となった。

 

「今回の企画は今までとは違う、

斬新なものにしたいんです。

櫻カンパニーさんには、

今までお世話になってきました。

でも、俺が社長を継いだあかつきには、

新しいことにチャレンジしたいんです。

今の若者にもっとホテルに、

興味を持ってもらえるようなことを。」

 

会社のミーティングルーム。

テーブルに身を乗り出すようにして話す相手。

真剣さが伝わってくる。

本来なら応接室に

通さなくてはならない相手だが。

今朝、新社長就任イベントの企画案を

数点用意したと伝えたら

すぐに伺うと、

本人自らやってきたんだ。

なので応接室は

予約客がもう入っていたんだ。

 

 

相葉雅紀か・・

向かいあう席に座る新社長の名前は。

今の社長とはだいぶタイプが違うな。

 

俺はさっき受け取ったばかりの名刺を眺める。

 

「今までの企画から

素案を作成させていただきましたが、

ご希望がよくわかりました。

一から練り直します。

もう少しお時間を頂けますか?」

 

俺とそう年齢が違わないように思えるが、

もう代替わりするのか?

うちは親父がまだまだ、

譲る気はないようだけど。

 

俺は、企画案を引き下げる。

 

「無理を言ってすみません。

でも・・・

どうしても

今回のイベントは成功させたくて・・・

親父を安心させたいんです。

こんな若造の俺に譲るのは

不安だらけでしょうから・・・」

 

さっきまでのハイテンションから

急にしんみりとし出す相手。

 

「それは?」

「親父、がんなんですよ。

だから・・」

 

がん・・智と同じだ・・

それは、辛いだろうな。

 

「それは大変ですね。

心中お察しします。」

「ありがとうございます。

今の主治医は、

東和大学病院の医師で、

親父の昔からの知り合いなんですが、

どうも・・・」

「どうも?」

「よい方ですが・・・・

帝都大の林先生が

名医と聞いたのですが‥伝手もないし・・」

 

治療に不安があるのか・・

帝都大の林教授か、

たしかに優秀な医師だ。

俺には手厳しかったが・・

あのいじわるな財前教授も

彼は優秀だと褒めていた・・

林教授か・・

 

俺が紹介しようかどうしようか悩んでいた時だった。

 

ドアがノックされ、

同時に開けられる。

 

「失礼します、櫻井課長。

あっ・・・お客様でしたか。

申し訳ありません。」

 

ドアを開けたのは、

俺の部下の新人。

慌てて行こうとするのを

引き留める

 

「なに?急ぎの用事?」

 

俺は相葉新社長に頭を下げながら、

部下に聞く。

 

「弁護士の成瀬先生から

お電話がはいっています。

どうされますか?」

「今、手が放せないから、

かけなおすと伝えて」

「わかりました。」

 

部下が出ていくと、

相葉新社長が、

驚いたような顔で俺を見ていた。

 

「櫻井さん、

成瀬さんて、成瀬領さんですか?」

「そうですが?」

 

それが何かあるのか?

 

「成瀬さん、弁護士に戻ったんですね。

良かった。本当によかった。」

「相葉さん?大丈夫ですか?」

「よかった・・・よかったよ・・」

 

いきなり泣き出した相葉新社長に、

俺はどうしたらよいのかわからず、

ただオロオロするばかりだった。