天使を見た記憶 いつか秒針のあう頃 68 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、国営放送のドラマの

撮影に忙しかった。

今までも、

1年の半分はライブのことで

日々が過ぎていたし、

それが今年は撮影に変わっただけなのに、

そう、忙しいってことは

変わらないのに、

立ち位置が変わると

時間の過ぎ方も変わるんだ。

そんな新鮮な感覚で毎日が過ぎ、

あんたのことを

頭の隅に隠していられるようになっていた。

 

 

 

 

プルプルプル・・

胸ポケットのスマートホンが鳴る。

 

撮影が順調に進み、

予定よりも1時間早く終わった。

久しぶりに飲みに行こうかと、

俺は考えていたところだった。

駐車場に待機している

送迎車のドアにもたれて

俺は電話を取った。

 

「はい、松本です。」

「柳田です。

よかった、

今話をできるかい?」

 

相手は柳田先生だった。

 

「はい、大丈夫です。

先日は、すみませんでした。

自宅まで押しかけてしまって。」

 

俺は、車から降りてきたマネージャーに

目配せすると、

その場を離れた。

 

あの事務所のことだ、

どこで監視されているか、

わからないからな。

 

「気にすることはないよ、松本君。

君ならいつでも歓迎する。」

「ありがとうございます。

ところで、柳田先生、

今日は何か・・・」

 

多分あのことだとは

見当が付いたが、

俺は知らんぷりで聞いてみる。

 

「君が忙しいのは知っているが

時間が取れる時に

会いたいと思ってね。

勿論、無理ではないよ。

電話でも話はできるから・・」

 

決して無理強いはしない

柳田先生。

こういうところが好きなんだよな。

 

「じゃあ、先生、

今夜飲みませんか?

 

今日は撮影が早く終わったので

久しぶりに

飲みに行こうと思っていました。

俺の行きつけの店、

先生も気に入ると思いますよ。」

 

ちょうどよかった。

先日のお礼をしようと

思っていたところだ。

それに院長の話は

あいつのことについてだから、

人目につかない方がいい。

 

「私は構わないが、

迷惑じゃないか?」

「いえ、柳田先生の

「話」も聞きたいので。

店の名前と場所を送ります。

俺、30分後には着けますので。」

 

約束を取り付けて、

俺は車に戻った。

 

「お待たせ。

飲み友達にさ、

明日飲まないかって誘われて・・

今日がいいって言ったらさ、

無理だと。

 

全く友達と時間が合わないよ。

忙しすぎだよ。

どうにかならない。」

「すみません、

調整はしているのですが、

なにせ仕事が多くて・・」

 

マネージャーが、

バックミラー越しに頭を下げる。

 

「別に怒ってないけどね。

でもさ、なるべく、

休めるようにしてよ。

俺もさぁ、もう若くないだろう。

いきなりダウンしちゃうかもよ。」

 

すまなそうな顔のマネージャーに

笑いで返事をした後

俺は見えない場所で舌を出した。

 

信じられないからな、

事務所は・・

 

でも、おまえら、

俺は案外手ごわいぜ。

 

「あっ、代わりに部屋で酒飲むからさ、

家の近くのスーパーで

降ろしてよ。

買い物して帰るから。」

「わかりました。

行きつけのスーパーですね。」

「うん、俺買い物したら

自分で帰るからさ、

明日の予定だけ、

確認させて。

えっと、10時にNスタジオ入りで、

15時に・・・・」

 

俺はちゃんと予定表に入っている、

スケジュールをわざわざ確認した。

 

 

 

「じゃ、お疲れ様。

明日よろしく。

あっ、大丈夫だと思うけどさ、

とりあえず、

8時30分に電話入れてよ

酒の飲み過ぎで寝てたらさぁ、

不味いだろ?」

「わかりました。電話しますね。

それでは、

お疲れ様でした。」

 

あ~面倒くせぇ・・

要らぬ労力を使ったぜ。

 

俺は送迎車が見えなくなるのを確認してから、

逆方向に向かって走った。

 

 

 

 

「ギギ」

 

重厚な木製のドアを開けると

顔見知りのマスターが見えた。

 

「いらっしゃいませ」

「オッス。」

 

俺が片手をちょっと上げて合図すると、

カウンターの向こうのマスターが

指でさっと、奥の方を指さした。

 

指の先、

奥のテーブル席には、

まるで昔からの常連のように

グラスを傾ける柳田院長の姿があった。