カズ
「まじかよ?あの喜多川物産のキャンペーンCMにかよ?」
「カズ、二人だけで行かせたときは心配だったけど、
金が絡むとお前はやるな。」
俺がいなくてよくできたじゃねえかって、信じられない顔のJと、
これまた、褒めているのか、貶しているのか、
仕切り屋のショウも驚いた顔を見せる。
「スゲー。これでまた有名になるねぇ。
今度できるでっかい競技場でライブできるかなぁ。
先輩たちがライブしたとこよりもデカい場所でしたいんだよ。俺。」
一番になりたいが口癖のマーが、
デカい手で俺の背中を叩いた。
「とにかく、こんな大きな仕事はもう来ないから。
みんなここが力の見せ所だ。
ストームの実力をみせよう。」
マネージャーが、契約の概要を説明するのを
皆、神妙な顔で聞いている。
「とにかく今はスポンサーの機嫌を損なわないように
くれぐれもスキャンダルは厳禁だからな。
女性関係、金銭、反社会的行動、
わかってるな。」
一人一人の顔を見ながら繰り返した後、
最後にサトのそばに行くと耳元で囁く。
それから、マネージャーは
事務所の会議室を足早に出て行った。
「ついに俺の出番がきたな。」
どこからその自信が出てくるんだよ?J。
「喜多川物産のことをよく調べないと、
経営方針、株価も大事だな。
あ、そうだ、就活生に聞くかな。
俺の大学の後輩にいたはず・・、」
スマホを取りだして、調べ始めるショウ。
なんだそりゃ。
入社するのか?
それとも、株を買って儲けるのか?
「あそこさ、バスケのプロチーム持ってるんだよね。
俺、見に行きたいなあ。
当然いい席のチケットくれるよね。」
それは、多分無いな。
俺は部屋の隅で
皆の話を黙って聞いているサトに近づく。
「まさか、あいつが担当者だったとはな。
あれを見られたときは焦ったけどさ。
契約金の40%いつもの口座によろしく。
大丈夫、報酬に見合った仕事はするからさ。
さて、次のターゲット、急ごうぜ、
このキャンペーンが始まると動けなくなる。」
サトが顔を少しだけ上げて俺を見た。
その目は、いつもの癒しのまなざしではなく、
氷のように冷たく感情のない目だった。