天使を見た記憶   いつか秒針のあう頃7 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

 

 

 

 

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「櫻井さん?どうしました?」

「あ、いや、ここって・・」

「ええ、昔ですけど、

なんか大野さんのドラマの撮影を

した場所らしいですね。

佐藤部長の知り合いで

お願いしたようです。」

 

こいつは、

あの人がドラマを撮っていた時は

まだ入社していなかったのか。

それどころか、まだ小学生?か。

 

知らないかったことに安堵して、

俺はどうにか車を降りた。

隣には別のワゴン車が止まっていて、

中から共演の若手女優が同時に降りてきた。

 

「櫻井さん、こんにちは。

今日はよろしくお願いします。

 

ここ、良いところですね。

海がみえるなんて素敵。

病院の中庭からの景色がいいって

マネージャーがいってました。

 

撮影が始まる前に、

写真を撮ってインスタに上げようかなぁ」

 

俺よりも20近く若い女優は

テンションが妙に高い。

たしかに

インスタ映えする景色かもしれないが、

ロケ前に上げて

場所がバレたら面倒なことになるだろう。

 

そんなことになるのは御免だ。

とにかく、1秒でも早く撮影を終えて

俺はここから立ち去りたい。

ここには居たくないんだ。

 

しかし、それは誰も知らないこと。

 

途中まで迎えにきた

スタッフに案内されてついた場所は

貴方が5年前に入院していた病室だった。

 

「事務所の方のお知り合いだそうですね。

こちらの院長先生は。

この病棟を撮影場所として貸していただけただけでなく、

この特別室も提供していただきました。

本当に助かりました。」

「ええ、うちの事務所の部長の大学の先輩だと聞きました。

ここはとても、綺麗な病院ですね。」

 

ニコニコと嬉しそうなその顔を見て、

話を合わせたものの、

俺にとっては、何とも居心地が悪い。

なにしろ、初めて入ったような顔を

しなくてはならない上に

いつ、柳田院長と遭遇するかと思うと、

芝居にも集中できない。

 

佐藤さんは何故ここを・・

俺が足を踏み入れたら不味くないのかよ。

 

 

「じゃ、本番行きます。3、2、1

スタート」

 

 

俺のイライラなど知る由もなく、撮影は始まった。

しかし、ハラハラしながらも、滞りなく進む撮影。

ハイテンションの女優も本番ではミスなく芝居し、

予定をかなり巻いて終了した。

 

「はい、カット。

御疲れ様でした。

 

今日の撮影はこれで終了です。

皆さんのご協力によりかなり早く終えることができました。

明日も、よろしくお願いします。」

 

良かった。

帰れる。

 

「櫻井さん、お世話様でした。

明日もよろしくお願いします。」

 

女優のマネージャーが俺に挨拶する。

当の本人はどうしたんだと探すと、

スマホで、何かを撮影中だ。

 

「お疲れ様でした。

彼女は、撮影で忙しそうですね。」

「ええ、撮影前に撮れなかったとかで、今・・

本当に、もう、すみません。挨拶もしないで。」

「いや、気にしないでください。

それじゃ、お先に失礼します。」

 

俺は、営業スマイルを浮かべてから、

駐車場に向かって歩きだした。

 

こんな場所は早く去るのが一番だ。

しかし、それは叶わなかった。

 

 

「櫻井君・・」

 

後ろから俺を呼び止めた声は、

今一番聞きたくない物だった。