うたかた33 翔6 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

 

 

切れなくて、長くなっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに言ってしまった。

 

 

結局一睡もできなかった。

 

いつかは来ることがわかっていた日。

いや、自分で最初から決めて始めたこと。

ただ、智くんを守りたくて、

俺にできることはこれしかないと。

 

 

1年間、俺の厳しい叱責にも、

一言の不満も反論も言わず、

黙って仕事をしてきた貴方。

昔から勉強も数字も得意じゃない貴方に

俺の仕事は難しくて、大変だっただろう。

大好きな絵を描く暇も与えず、

俺と一緒に仕事三昧の日々だった。

 

 

あのスポーツカー・・・

運転の得意じゃない貴方には

さぞかし、乗りにくい車だっただろう

 

でも、俺は貴方に運転して欲しかった。

欲しく欲しくて、やっと手に入れた車。

たった一度しか貴方を乗せることができなかった。

だから・・

 

貴方があの車で事件に巻き込まれたのも、

そろそろ、潮時だってことだったのかもしれない。

でも、骨折するほどの、暴力を受けたなんて。

痛かっただろう、智くん。

 

貴方のそばで大丈夫だよって励まして、

付き添ってあげたかった。

1か月、貴方の姿を見られなかっただけで、

寂しくて、胸が苦しかった。

 

貴方が立ち直れるように、

もう死ぬなんて考えないようにって

それだけを考えてやってきた俺。

貴方が消えたら、これから俺は

何を支えに生きていけばいいのだろうか。

 

 

貴方と、潤の朝食の時間を過ぎた頃、

俺は雪子さんに仕事をするからと言いおいて、

仕事部屋に籠った。

 

出ていく貴方のために

早く犯人への慰謝料請求の裁判を起こさないと。

俺からの餞別という名の退職金など、

きっと貴方は受け取らない。

だから、慰謝料として取れるだけ取って、貴方に渡す。

そして、預けてある車は貴方に貰ってほしい。

だから、不機嫌な理由をつけて押し付けるよ・・。

 

弁護士との打ち合わせ、車の修理の手配と名義の変更

焦る気持ちでそれだけをこなすと、俺は疲れ果てていた。

 

 

一睡もしていないんだ。

さすがの俺も持たない。

昼食までの1時間と少し。

体も心も休みたかった。

 

あそこで、あの部屋で、思い出に浸ろう。

 

そこは、昔、俺が怪我をするまでは、俺の部屋だった場所。

 

エレベーターで2階に上がると、その部屋の鍵を開ける。

 

中は昔のままで、何も変わらない。

子供の頃から使っていたベッドと、机。

本棚に並ぶ様々な本。

智くんが好きで

いつも見ていた父親の海外出張の土産の画集。

 

壁に掛かる大きなフレームには、

中学の卒業式にとった貴方と並んだ写真。

 

小さなフレームに入っているのは、

貴方が書いてくれた俺の絵。

 

雪子さんにも入らせない、俺だけの場所。

幸せだった時の思い出が詰まった大事な場所。

 

智くんの部屋をこの部屋の隣に指定したのも、

貴方を感じたかったから。

貴方がベランダで泣いているのを、

何度もここから見ていた。

切ない声で、泣いている姿を見るたびに

俺は胸が締め付けられた。

 

しかし、もう、その姿さえ見ることは無いんだ。

 

俺は引き出しから、1枚の写真を取り出した。

あの事故の日、最初に寄った海岸で

車と一緒に取った貴方の写真。

 

智くん・・

 

ドン、ドン、ドスン・・

それまで静かだった隣の部屋から、

急に壁に何かぶつけるような音が

連続して聞こえてきた。

 

いつも、テレビの音さえほとんど聞こえない貴方の部屋の大きな音に

俺は嫌な予感がした。

 

うるさいと不機嫌な顔で文句を言いながら、部屋を出た時、

泣きながら階段を降りる智くんが見えた。

 

後から部屋をでてきた潤が困ったような顔で立っている。

何があったのかという、

俺の質問に答えない潤。

 

直観的に俺は、潤が何をしたのか理解した。

 

許せない、

その気持ちがこみあげてきた俺は、

怒りのままに、

車椅子から飛び上がるようにして

潤に殴りかかっていた。

 

そして、床に叩きつけられて、

意識を失った。