Sが町を離れてから間もなく、市政刷新ネットワークは解散宣言をした。

 笑ってしまったのは、市政刷新ネットワークの実績としてこのような内容を挙げていたことである

 ・無印良品の道の駅出店計画を阻止

 ・二人目の副市長人事に反対して副市長を1名にする

 ・決算案不承認

 ・A町保育所移転への反対

 

 無印良品は市民の多くが望んでいた。副市長を2人にする人事はSが市長になる前、後に市政刷新ネットワークに参加する議員が立案・可決したものだ。そういう矛盾に笑ってしまうのだが、そもそもが「反市長団体」と考えれば納得できる。

 なぜ解散宣言をしたかについてはいろいろなうわさがある。その中には元郵便局長だったTさんが当選した市長選でいろいろあって内部分裂っぽいことがあったというものもある。ただ市政刷新ネットワークという名称の団体は解散しても、「市政刷新ネットワークの掟」がなくなったわけではない。だからこの手記では、市政刷新ネットワーク解散宣言後も市政刷新ネットワークという言葉で彼らのことを表現してきた。

 

 さて、彼らはなぜいつまでも議員を辞めないのかだ。

 議員という立場で得られる利権を手放すことができないというのが一般的な解だろう。様々な人間関係のしがらみによって「辞めることができない」ともいえる。議員を辞めてただの人に戻った時の恐怖もあったと考えられる。

 

 ここでは一つ、俺なりの考えを述べる。

 彼らの「議員としてのビジネスモデルは金がかかる」のだ。とくにW議員や山川さんはそうだ。

 彼らは国会議員や県会議員、さらに現職大臣とのパイプを持っている。これを維持し活用するには「盆暮のご挨拶、選挙の際のご祝儀」はかかせないだろう。もちろんこうしたお金は「オーナー企業による公金ビジネスの実現」として返ってくる。だがそれがW議員や山川さん個人の生活を豊かにするとは限らない。

 

 たとえば、Y女史が市議会議員に初当選した時の選挙費用はW議員・山川さんが負担している。当時の副市長を無投票選挙で市長にするためにY女史の市長選出馬を諦めさせ、その代わり市議になるならお金と票とはこちらで準備すると言って説得したのだ。これで数百万円かかったはずだ。加えて自分の票のためのお金を準備しないといけない、支持者との集会や広報紙の発行も必要だ。扶養企業を養う、接待するなどの費用も必要だろうし、情報を買うこともしていた。

 要するに金・金・金(ばらまき)なのである。これをオーナー企業の経費で賄うこともあったろうが、それには限界がある。となると表に出ない金が必要だ。

 そう考えると、年約600万円という議員報酬は極めて大きな価値を持つ。家族の生活費としても議員を続けるための費用としても重要だ。

 

 彼らが作り上げた議員としてのビジネスモデルは「お金がかかるもの」である。ただそのビジネスモデルは、国会議員や県会議員にとっては「搾取し放題(鴨)」でもある。

 その結果、市政刷新ネットワークの議員には、ギリギリな経済状況の人が多かったのではないかと思う。と言って、議員でなくなれば金で買った支援者は離れていくだろう…。そういうことも、彼らが議員にしがみついた理由、市は破綻しないと言い続けた理由ではないかと思う。これは、俺も年を取って彼らの年齢に近づき、老後の生活を考えた時に実感した思いである。

 

 彼らは結局いろいろな人の「金づる」だったに過ぎない。利用しているつもりで実は利用されていたのが実態ではないか(そういう意味で支持者・市民と言うのはとてもずるく怖い存在だ)。

 Sは市長としても個人としても、W議員や山川さんを「金づる」から解放してあげたいと思ったはずだ。もし彼らがそれを理解しそのとおりに行動していれば、それぞれの晩年はかなり違ったものになっただろう。