人口15万人の隣市との合併が決まった。

 隣市は、昔から交通上の要地にある。いわゆる宿場町で人と文化が交わる地域だ。

 この町の強みは大きく2つあると俺は考えている

 一つは、日本を代表する大手自動車メーカーの工場を抱えていることだ。

 工場内にはテストコースもある。単なる製造工場ではない。研究・開発部門も持つ工場なのだ。

 もう一つは、教育に力を入れていることだ。

 人の往来が多い町には様々な文化・学問が入って来る。明治時代、横浜港と群馬の製糸工場とを結ぶ「絹の道」には西洋文化が伝わり、自由民権運動が起きたり、民主憲法が作られたりした。同じようなことが隣市にもあり、それが教育を大切にするという文化として定着したのだと思う。

 

 弱みも大きく2つある。

 歴史・文化・産業に大きな特色がないこと。

 「県庁所在地~俺のふるさとの町~隣市~隣県」を結ぶJR路線が全国屈指の赤字路線で廃線の危機にあること。

 

 合併成立の際、国はJR路線の存続に協力したいとコメントした。これが合併承諾の要因になったのではないかと思う。

 県教委は、市内3つの高校を一つに統合し「広域通信制高校」にすることを正式発表した。県内からスクーリングのために登校する際は鉄道での通学が必要になる。また、今まで市内の高校に進学していた中学生は、隣市の普通高校・商業高校に進むことになるだろう。人の往来が増えJR利用者も増えることが予想される。

 また、俺の町にはサーキットがあり、それなりに人も集まっている。自動車メーカーはこれを有効活用したいと表明した。

 Sが市長時代に知名度を高めた「神楽」も隣市のものとなる。これは市の広報にとって大きなメリットとなるはずだ。

 

 隣市が合併を承認したのは、そんな背景があるのではないか。

 ただ、合併条件にはこんな一文があった。

 現在のQ市長、および12名の市議会議員は全員辞職する。隣市の議会に迎えること、議会定員を増やすことはしないと。市民の間では市政刷新ネットワークの2人の議員(Y女史とO議員)を排除するための条件だろうと言われている。

 

 市民劇団は解散することにした。

 今年の夏の合宿と本番とが最終公演になる。

 

 Sがこの町を離れてからを追ったドキュメンタリーは、合併を市民に伝えるQ市長の苦悩と市民劇団の最終公演とを巡るストーリーで構成し、これを最終回とした。

 番組はその年の民間放送連盟賞、ギャラクシー賞などを受賞した。