この町の歴史を遡ると、昔々鉄が取れ、製鉄・刀・鉄砲作りで栄えた時代がある。

 鉄の重要性は今でも変わらないが、それは近代の製鉄技術・製鉄産業のものとなった。繁栄は終わって現在に至る。ただ、それは鉄だけでなく金山・銀山・銅山で栄えた町も同じである。炭鉱で栄えた夕張市も同じ流れと言える。夕張はこの流れに抗おうとして観光・ハコモノに過剰な投資をして破綻した。

 

 ふるさとの町は、繁栄が終わっても自給自足と贈与経済で支え合って生きてきた。

 それは1つの市に統合されても変わらなかった。

 

 だが、そこに町から大学に進み、建築士の資格を持って戻ってきた若者が現れた。

 彼らは父の事業を受け継ぎ、地縁で仕事を獲得しつつ事業を大きくしようとした。

 町で最もお金持ちなのは「市」である。公共事業の受注が事業拡大につながることに気づいた彼らは当時市議会議員だったXさんに近づいた。そして自らも市議会議員となり、市の予算編成に関わるようになった。

 事業は大きくなり、下請け企業を支配下に置くこともできるようになると「市から仕事を受注する~関係企業に仕事を回す~関係企業が固定票になる~選挙地盤を固める~市議会議員として予算編成に関わる~市から仕事を受注する」という循環が確立した。

 

 その結果、地縁とお金とがいびつな形で結びついた。贈与経済と貨幣経済とのいびつな融合はこの町に格差を生んだ。Xさん・W議員・山川さんの周辺にはお金が回る。だがそれ以外のところには回らない。そして、観光・ハコモノ事業だけが走り出す。

 

 市政刷新ネットワークの参加者はこの町の富裕層ばかりだ。

 この町に貨幣経済・資本主義的原則を持ち込み、近代化を進めた功労者と言えるだろう。だが、彼らはその富を独占した。その富の原資は「市税」である。

 このビジネスモデルは「お金を配ること」で維持される。一度お金を受け取った人間はその関係性から逃れられないからだ。やがて彼らは、お金を配るだけでなく、「受け取る側」にもなった。その結果、町は「国会議員・県議会議員の植民地」になった。市税はそちらにも流れ、流れたお金はメガソーラー事業となって戻って来て市民の命を奪った。

 

 Sの市長時代の功績は、地縁とお金のいびつな結びつきを指摘し、市税を平等に再分配しようとしたことと言える。彼はそれを「お片付け」と言った。だが、それは市政刷新ネットワークにとって極めて都合の悪い事だった。公金ビジネスによる富の独占ができなくなると、自分の事業だけでなく、自分の支援者も失うことになるからだ。

 Sは市長時代にこのことを指摘していた。だがそれを市民が理解するまで少し時間がかかった。市政刷新ネットワークが選挙で大敗した今、市民劇団の指導のために戻って来て深呼吸すると、町の空気の浄化を感じる。

 

 そしてSがこの町を離れて10年…この町の消滅が決定した。