Sが市長を辞めこの町を離れてからを追いかけたドキュメンタリーを製作している。

 年2回の放送だがこんなに長く続くことになるとは思わなかった。

 そして、その最後にSが市長時代に予告していた「この市がなくなもしれませんよ」という言葉を立証することになるとは思わなかった。

 

 マスコミ報道に載るのは、破綻が噂される町で統合されて間もなくなくなるかもしれない地元の高校に進むという中学生の姿だったりする。そういう番組では、地元の町を愛しもっと良くしたいという気持ちが強調される。

 だが、現実はそんなに美しいものばかりではない。

 県庁所在地にある公立・私立の中高一貫校を受験する小学生が増えてきた。合格すれば一家転住である。高校進学も県庁所在地だけでなく、人口15万の隣市に進む者もいる。県庁所在地まではJRで90分かかるが、隣市なら30分だ。家族が隣市に勤務している家庭の場合、出勤の車に同乗して通学できる。

 皮肉な話だが、破綻が噂されるようになってから家庭の教育熱が高まってきている。親としては、自分がこの町で暮らすことに抵抗は少ないが、子供がこの町で…となると考えてしまう。

 中高生が探究学習で取り上げる個々のテーマも変わってきた。

 少し前までは「この町の課題・未来」がほとんどだった。それを自分の将来と結び付けて考えるパターンだ。今は「日本・世界の課題」や、昔の俺のようにシェイクスピア研究とか神社・古民家の建築様式など「学問系のテーマ」を取り上げる生徒さんが増えてきた。

 学びも未来も選択肢が増えた。と言えば格好良いが、現実は外の世界にも目を向けないと学びも仕事も稼ぎも実現できないのだ。

 

 そういうわけで、Q市長になってから人口減少は加速している。市政刷新ネットワーク関係者はQ市長がダメだからと、そういうことを相変わらず言っているらしい。人口減少加速の要因が、A町保育所の件に象徴される自分たちの所業ということが未だに理解できない人たちなのだ。

 

 さて、この町が進むべき未来も明確になってきた。

 破綻申請か、他市との合併かである。

 その頃、夕張市は財政再建団体の指定を解除されていた。平たく言えば借金の返済が終わったのだ。だが、返済が終わり、国からの管理から解放されても人口が増える、産業が盛んになる…というわけではない。再建中に病院も鉄道もスキー場もなくなった。そこに戻って来る人は…である。

 この町も「破綻申請して負債を返せば、市から離れた人々が戻ってくるのか」を問われれば…である。すでにJ1チームの練習場を失っている。破綻すれば鉄道や高校を失い、赤字の道の駅は閉鎖することになるだろう。その時、この町は文字通り陸の孤島と化すはずだ。

 

 破綻して出直すというのは道徳的には美しいが実効性は低いようだ。

 となれば合併である。

 だが、受け入れてくれる自治体はあるのだろうか。

 それだけの価値あるものが、我が町にあるだろうか。