新市長2期目の秋、A町保育所は土砂崩れに襲われた。
園児10名と職員4名の尊い命が犠牲になった。
その日は雨であったが、災害を招くような雨ではない。土砂崩れは、3年前に設置されたソーラーパネルが原因ではないかと思われた。
そもそもA町保育所は市の災害マップのレッドゾーンにある。移転については10年以上から市の懸案事項であった。
亡くなった職員の一人は、俺が指導していた劇団の出身だった。
中学2年生の時劇団に参加して高校卒業まで在籍していた。ピアノが弾けて歌とダンスがうまかった。劇団のミュージカルスターで、彼女のファンと言う人がたくさんいた。地元の普通高校から県外の短大に進んでその専攻科まで進み、3年間で保育士・幼稚園教諭・介護福祉士の資格を取ってこの町に戻ってきた。
戻ってきてA町保育園に就職して1年目だった。
彼女の葬儀にはどうしても都合がつかなかった。
その代わりと言っては語弊があるが、劇団の指導で帰省の度にご自宅で線香をあげさせてもらった。
最初は思い出話などをすることが多かったが、徐々にご両親はその後のことをポツポツと話し出した。補償問題である。
A町保育所は社会福祉法人が経営している。神社を母体とするその法人は3つの保育所を所有しており、その一つがA町保育所である。それぞれ市の指定管理者となっている。
社会福祉法人は誠意ある対応を示している。補償額は十分とは言えないが、法人が示せる精一杯の金額であり、この点について責める気持ちは全くないという。
一方、市の対応には納得できないことが多いと言う。
まず労災認定が進まない。市は、自然災害による被害は労災の対象にならないという。
だが、A町保育所はレッドゾーンにあって10年以上前から移転の話はあった。
Sの市長時代、現在の田んぼアート事業地への移転計画を進めるという具体的な動きがあった。もしその時、移転計画が承認されていれば今回の土砂災害にはあわなかったはずだ。
また、この町には山沿いに暮らしている人も多いが、そういう家のある場所で土砂災害が起こったことはない。それが保育所の裏山で起きたのはなぜか。ソーラーパネルのせいではないのか。あのパネルは誰が設置したのか、市はなぜ事業許可をしたのかと追究すると黙ると言う。そもそも謝罪がない。また交渉に来る市役所の職員はお使い役で責任ある担当者が来たことはない。市長に会ったのは合同葬儀の時だけだ。
ある日、いつものように訪ねるとご両親が引き留める。聞いてくださいと言う。
先日山川さんとR議員が来て、市との補償交渉で市の言うことを聞きなさいと言った。
なぜですかと問うと、「市も大変なので助けてください。あなたも市の厳しい財政状況は知っているでしょう。そこからお金を貰ったとなると納得できない市民、あなたのことを悪く言う市民もいると思いますよ」と言う。
どうしたら良いですか…というお父さんの声は震えていてお母さんは声を出さずに泣いている。
遺族で集まった方がよいです。同じようなことが他のご遺族にもされている可能性があります。ご遺族同士で情報を共有してください。
必要ならば友人に弁護士もいます。紹介しますよ。
つづく