俺たち夫婦には子供がいない。

 一応、長男×母屋で暮らす身としては、そのうちできるだろうというか、2人くらい子供を授かり家族4人で暮らすというよくある未来が自分たちのものになることに疑問をもたなかった。

 だが…である。

 幸い、父母姉夫婦はそういうことを話題にしなかった。いわゆる「長男の嫁ハラスメント」はない(と思う)。母・妻・姉は仲が良い(はずだ)。PCやネットに詳しい妻は、甥・姪から尊敬もされている(ようだ)。

 

 仕事で上京した時、俺はネットで探した病院を予約し検査を受けた。

 原因は俺ということがわかった。実家に戻り父に告げた。

 長男である俺に跡継ぎは期待できない。幸い、姉の長男が農業、長女が勉強に興味を持っている。我が家の継承・相続についてはそういうつもりでいて欲しいということだ。

 父は、奥さんには言ったのかという。まだだと伝えると、こんなことを言い出した。

 

 「奥さんと話し合え。長男だからとか、長男の嫁だからとか、そういうことは考えなくてよい。奥さんの気持ちがすべてだ。奥さんが子供が欲しいというなら医者に相談しなさい。夫婦二人でやっていくならそれでも良い。田舎だと難しいかもしれないけど、養子をもらうという選択肢もある」

 「母さんには俺から伝えておく。お前は奥さんに伝えなさい。母さんがどういうかはわからないけど、これはお前たち夫婦の問題であって、家だとか、長男だとかってことは関係ないからと言うつもりだ。だから、こちらからこのことを話題にすることはしない」

 

 結論を先に言うと、夫婦で話し合って、すべて自然に任せようとなった。

 治療はしない。と言って子供を諦めるというわけでもない。でもその確率は極めて低い。そういう事実を受け入れて2人で暮らしていこうとなった。

 また、お互い仕事頑張ろうという点で合意した。俺はゴーストライターの卒業、妻はwebデザイナーとして企業に入ることがとりあえずの目標だ。お金持ちになることを求めていないが、もう少し稼げるようになろう。今暮らしてい母屋もやがて出ないといけない日がくるはずだ。その時の備えである。

 この時から貯めはじめたお金が後の上京資金となった。Sが市長を辞め東京都知事選に出る頃、妻は企業に入り、俺はゴーストライターの卒業のチャンスをつかんだ。そして二人で東京に引っ越した。

 

                             つづく