投票日の前日、俺はある劇団の地方公演に参加していた。

 舞台監督という名の雑用係である。

 この公演は某テレビ局との共催である。テレビ局の担当プロデューサーは早稲田の演劇サークルの先輩。土曜日の夜公演が終わって食事に行った。

 地方公演のお楽しみである。

 

 食事の話題は、明日の選挙のことになる。

 プロデューサーの興味は、都知事選よりも俺の町の選挙の方にあるようだ。

 ちなみにこの人、俺が脚本を担当したテレビドラマ「議会のオキテ」のPである。 

 俺に1本まるまる脚本を書くというチャンスをくれた恩人。ただし、このドラマは俺の町でも放映される。そこで俺の名前が出るのはいろいろまずい。そんなわけで、俺は脚本家としても未だにゴーストライターである。

 ただ、ドラマは好評だった。特にTVerの再生回数が高かった。そんなわけでPがこの劇団で舞台化もしてくれた。以来、Pともこの劇団とも懇意にしている。

 

 お前の町の選挙はどうなりそうなんだ…と言われて返事に困った。

 期日前投票のために日帰りした時、父の顔色はあまりよくなかった。市政刷新ネットワークが推薦している元郵便局長さんが勝ちそうだという。

 「この町を選挙区としている国会議員、県議会議員のバックアップがすごい。例の事件で現金を貰って辞職した元副議長も市議の補欠選に出馬しているだろ。知事選・補欠選、どちらも市政刷新ネットワークが勝つかもしれない」

 

 父の言葉をPに伝えると、しばし考えてから撮ろうかと言う。

 「もしだけどな、お父さんが言う通りの結果になったら長期取材で追いかけてみないか。その後を検証するドキュメンタリーだ。45分か60分枠で年2回放映しながら次の市長選まで追いかけるんだ」

 「明日の都知事選とお前の町の市長選は、どちらも日本の未来を左右するものだと思っている。ただ、考えたくはないがSさんが破れ、市政刷新ネットワークが勝つ可能性も否定できない。もしそうなったら、なぜそうなったのかを検証しないといけない」

 「それをお前の町でできないか。2人の全くタイプの異なる市長を知る中学生が自分の未来をどのように考えるのか、この町の未来をどう考えているのかを継続的に取材する。これはSさんが蒔いた種がどのように成長するかの検証になる。並行して、新しい市長と市政刷新ネットワークの行政手腕も検証する。人口減少が進む町をどのように運営していくのか、黒字転換した財政がどうなるのか、市長・議会・執行部の関係性はどうなるのかきっちり追いかけるんだ」

 

 「もしそうなったら、俺がPをする。お前には構成・演出で参加して欲しい。そろそろお前の名前を出そう。いつまでもゴーストライターではだめだ」

 

 明日の選挙で決まるものの中には、俺の未来も含まれているようだ。