妻が少し興奮して帰宅した。

 SのHP(余談だが、最近夫婦間ではこれはホームページと言わず、エイチピーと読むことが習慣となっている。気になった方はR議員で検索して欲しい)を見ろという。

 そこには、Sの演説予定が記されている。明後日の予定に蒲田がある。

 

 夫婦で見に行った。そこで俺たちが見たのは、Sのことを知り、Sの考えを知りたいと考えて集まってきた人々の姿だった。人々はSの言葉に耳を傾け、納得し、大きな拍手を送っていた。しかも、決して広いとは言えない蒲田駅前で、他の歩行者やバスなどに迷惑をかけないよう整然と行動していた。

 予想外の人の多さに、Sの姿は遠くからしか見ることができなかった。しかし、その声、その言葉は、まるで目の前にSがいるように聞こえた。Sの姿がだんだんぼやけてきた。

 

 俺が知っている東京がここにあった。集まった人々はSが主張する危機感を共有していた。だからこそ東京の現状を憂い、希望ある未来を創造するにはどうすればよいかに悩んでいる。そういう人々とSとが対話する姿こそ、俺が知っている東京だ。

 もちろん、そこに厳しい現実や解決困難な課題が山積しているのは事実だ。だが、だからこそ都民が都民の力で希望ある東京を作るチャンスではないか。課題を解決し、希望ある未来を創造するのは今しかない。そのためにはSが都知事になって国政からの影響を排除することが絶対条件だ。国政から独立することで適正な予算・事業執行や全国との自治体との連携を進めるのだ。その時、東京都もふくめた全国の自治体が持つポテンシャルが引き出されるはずだ(そうじゃないと東京も含めた全国の自治体が国政の植民地となるか、俺のふるさとのようになってしまうだろう)。

 

 妻はこれ以降Sの追っかけモードに入った。ボランティアにも参加したかったようだが、それはさすがに仕事があって無理。ただ、Sが近所や沿線で演説する時はPC持参で出かけていく。先日はハイタッチできたとうれしそうだ。夫婦ともに思うのは、こんなこととわかっていたら昨年の間に東京に引っ越して投票権をゲットしておくべきだったという後悔だ。

 

 一方、俺も妻も投票権があるのは故郷の町の選挙だ。

 市政刷新ネットワークが担ぎ出した元郵便局長の出陣式はなかなか悲惨なものだったらしい。まず来賓が多い。なんと現役の大臣や国会議員が出席していた。その場にはW議員や山川さんもいる。票の取りまとめが依頼できそうなメンツが揃っている。5年前のあの事件と同じ構図が透けて見える。

 この町の市議会議員から県議会議員に鞍替えしたJ議員は、出陣式の祝辞でこんなことを言ったそうだ。 

 「S市長は、県知事や県議会の議長への挨拶を怠った。もちろん地元選出の県議会議員である私にも挨拶がなかった。だからこの町の人口は減るし、無印良品は出店を諦めたのだ」

 「私が県知事・県議会の議長にお願いすれば、この町がやりたいことはすぐに実現できる。だから、議会や県との関係性を重視している元郵便局長が市長になれば、この町はすぐに発展する。私が推薦する元郵便局長を市長にしましょう」

 

 そして、立候補者の挨拶は本当にあいさつで、政策などに関する言葉はなかったそうだ。その話を聞き、俺と妻は日帰りで地元に戻った。不在者投票のためである。