Sが市長に就任する前後、学校現場のICT化が進んだ。

 生徒個々にタブレットやPCも配布された。

 これを受けて、学校と生徒個人とのネット環境の整備が進んだ。また、スタディサプリを市で契約して生徒は無料で使えるようにもした。その後、小中学校の机・椅子の整備、給食費の無償化、給食・校務支援員の配置、そして生徒会長に100万円などの策を実施していった。その中には、俺のように探究学習の外部支援も含まれている。

 こうした政策に市政刷新ネットワークは反対していない。

 議会で質問もしていない。

 市政クラブのP議員は小学校のエアコン配置について質問をしたが、それはS市長が「暑いからです」で決着がついた。Q議員は「探究学習」について質問したが、これは要するにもっと市で支援してもよいのではないですかという主旨であった(ややピント外れではあったが)。

 

 市長の提案には何でも反対する市政刷新ネットワークが教育に口を挟まないのはなぜか。

 俺は、まず学校には利権がないからかと思った。次に、教育に関する予算の原資はもちろん市の予算であるが、それをもう少し細かく言うと「YouTubeの収益」「ふるさと納税の教育分野指定寄付」になっている。これらは「Sが市長として稼いだお金」と言ってよい。だから、とりあえず黙っているのかと思った。

 だが、探究学習支援で市内の小中学校にも出入りするようになってわかったことがある。

 

 小中学校には、市政刷新ネットワークに所属する人たちの「孫」が在籍しているのだ。もちろん市内の高校にも在籍している。ということは、彼らの子供は保護者である。もし学校関係の予算を市議会で削ればどうなるか…。

 市政刷新ネットワークが、学校・教育関係の予算に口を挟まなくなったのは、そういうカラクリであるようだ。

 

 もう一つ気づいたことがある。学校の先生には異動がある。

 昔は、その学校に長く在籍する「主」のような先生がいたものだ。だが、現在は長くても8~9年で異動になるらしい。平均的には5~6年で異動していく。

 先生の中には、この町出身でこの町に住んでいる人もいる。だが中学校になるとそういう人は半分以下になる。高校だとほとんどいない。学校の先生はいろいろな地域のいろいろな学校を経験して教育力を高めるという方針があるらしい。

 その結果、先生は「地縁」のない学校で勤務することになる。ということは、市政刷新ネットワークの影響を受けないのである。

 

 そうか…S市長が教育への投資を説くのは、今まで市政刷新ネットワークが教育への予算を削ってきたということもある。また、未来の子供たちに投資するということもある。だか、決定的なのは、ここには市政刷新ネットワークの手が及ばないのだ。

 彼らが構築してきた利権、地縁、ご挨拶は、学校には通用しない。

 しかもICT化は彼らが全く理解できない分野である。そして、彼らの孫が在籍している。市政刷新ネットワークに邪魔されることなく効果的な支援ができる。

 さらに言えば、教育分野に口を挟もうとしても、市の教育長はこれを断固として跳ね返す。教育長は子供の教育を真剣に考えている人だ。そのような人に市政刷新ネットワークの浅はかな教育論が通用するわけがない。 

 

 なるほど、市政刷新ネットワークの人々というのは、結局はご都合主義なのだ。

 きっと家では、そのi-padはおじいちゃんが議会で通したんだとか言っているに違いない。かつて市長への不信任案を否決した人々の実態がこういうものであることは、ここに書き残しておきたい。