子ども議会を題材とした振り返りワークを終えて、見学に来ていた教育長と校長室で少ししゃべった。

 教育長はとても喜んでくれた。そしてこれからのことを少し教えてくれた。 

 「市長は、教育に力を入れたいと考えている。少し前、国の政策でタブレットやPCが導入された時、スタディサプリを市で契約した。市民の収入格差の支援として給食費の無償化を実現したが、その際、給食支援員の導入もしている」

 「今、机や椅子を新しくする準備をしている。現在の机のサイズではPCなどを扱うには狭い。そこでPCなどを扱いやすいような大きな机にする。古い机を新しくするのではない。すべて入れ替える。財源はYouTubeの収益、ふるさと納税の教育指定のものを充てる」

 

 そういえば…と校長が口をはさむ、S市長と同級生だったんですよね。

 「違います。同期ですが同じクラスになったことはありません。しゃべったこともないです。ただ、Sは隣の小学校の1番で、俺は地元の小学校の1番でした。中学ではSが1番、僕は2番です。そういう関係なので僕は何となくSを意識していました」

 

 すると教育長が、市長はあなたのことを知っていましたよ。劇団の公演を見た時、指導しているのは僕の中学の同期です。早稲田に行ったんですよ、すごいでしょって言ってましたよ。

 そうか、Sは俺のことを知っていたのかと思う。

 ただ、あまりこの話題を掘り下げるのは危険だ。何せ、俺は市政刷新ネットワークのゴーストライターなのだ。俺は今人間として最も恥ずべきことをしている。間違いなく地獄に墜ちるだろう。それだけのことをしている。俺は話題を変えた。

 

 「この中学の1番は京都大学、2番は早稲田大学なんですよ。勉強を頑張りたい子供たちに、このことが少しでも勇気やモチベーションになればと思います。もちろん、先生方にも」

 「あとですね、この町の大人には、勉強なんか役に立たないという人がいますよね。そういう人に話を聞くと、勉強ができる子供は高校進学でこの町を出て戻ってこない。だから人口が減るんだ。この町の子供に勉強なんか必要ない。勉強させなければみんな地元の高校に進んで地元で働くだろう。そうすればこの町は大丈夫なんだっていうのです」

 「残念なことですが、子供たちの中にはそういう大人の言葉を信じる、勉強しなくて良い理由として利用する、勉強を頑張っている仲間を揶揄することがあるようです。そういう人に、京大と早稲田とに進んだヤツは戻ってきたと伝えてください。ただ、Sも僕もあまり歓迎されていないですけどね。で、歓迎されないならSも僕も、この町を出ていくでしょう」

 

 「東京でも田舎でもどこでも暮らせる人間を育てることが必要だと思っています。逆説的ですが、どこでも暮らす能力を持った人間は、この町でも暮らせるはずです。どこでも暮らせる人間、つまり経済的に自立している人間がこの町に集まると、この町の課題は解決に向かうと思っています。そういう能力を持った人間をこの町で育てる、この町に呼び戻す、この町に誘うことが必要だと思っています」

 

 「ただ、そういう人間を好まない、理解できない大人がこの町にはいます。2人目の副市長候補もそういう人に否決されましたよね。残念なことですが、この町には、どこでも暮らせる人がこの町以外で暮らす選択をすると言う悪循環があります。この改善が大切だと思っています」

 「この先、Sがこの町から追われるようなことがあったら、僕もこの町を出ようと思っています。この町から排除の悪循環がなくなるといいですね」

 

 ちょっと…言い過ぎたかもしれない。