中学校の探究学習で「美術館の維持か給食費の無償か」を題材にしてワークを行った。その最後に「美術館を廃止にするなら市民劇団も廃止にしないとおかしい。不公平だ」という意見を述べる中学生がいた。市政刷新ネットワーク代表Xさんのお孫さんだ。

 俺は演劇を通して文化に携わる人間として、普段から考えていることを返答した。

 

 「美術館を作った人、運営する人は、もっとたくさんの人に来館してもらって入場料収入を増やす、それでも足りなければスポンサーを募ってお金を集めるなど、経済的に自立する努力が足りなかったと僕は思っています」

 「展示だけでなくワークショップなどを開催する。その時は、地元の町だけでなく市内すべての人々や学校に声をかけて利用者を増やすなど、少し考えただけでもいろいろなことができます。たとえば、僕がやっている演劇ワークショップを美術館で行うこともできたのです。実は、何度か声をかけたのですが返事はありませんでした」

 「厳しい言い方ですが、文化に携わる人間として、美術館は経済的に自立する努力・もっとたくさんの人に利用してもらう努力が足りなかったと僕は思っています。そして年間2,000万円の赤字を出して事業見直しの対象になった。それが仕方ないとも思っています」

 「もし、美術館が経済的に自立していれば廃止にはならなかったでしょう。市長が難しい決断を強いられることも、今まで美術館を利用していた人が悲しい思いすることもなかったはずです。そういう姿を見て、僕は、僕自身が関係している市民会館や市民劇団をきちんを運営する努力をしないと…と改めて思いました」

 

 「僕がこの町に戻ってきたとき、市民会館は誰も使っていませんでした。そこで、学校を巡ったり、音楽や俳句など大人の趣味のサークルの人々に会って、市民会館を使ってくださいとお願いしました。ロビーで美術部の作品展をしていますよね。みんなのお祖父さんの書道や俳句も掲示されています。今は、合唱コンクールや吹奏楽部の演奏会も市民会館で開催してもらうようになりました。とても感謝しています。ここまで来るのは大変かもしれませんが、冷暖房完備だから学校でやるより快適だと思います。中高生が来やすいように駐輪場も大きくしました」

 「市民会館の運営自体はまだ赤字です。でも廃止になった美術館の半分以下です。正確には年間880万円の赤字です。僕の今の目標は、市民会館を経済的に自立させることです。そのことがこの町の文化を守ることだからです。文化に携わる人間には、事業や会館を経済的に自立させるという義務があるのです。なぜなら赤字だと文化は守れないからです」 

 

 Xさんのお孫さんは「わかりました。ありがとうございます」と答えた。

 お孫さんはXさんから思想的な影響を受けているようだ。だが、彼自身はとても素直で頭のいい子ではないかと感じた。

 その時、授業終了のチャイムが鳴った。

 教室を出ると教育長がいた。握手を求められた。