(前回の続き) 

 俺は中高の探究学習の支援を頼まれることがある。

 今日は母校である中学校で、「美術館の維持か給食費の無償か」を題材に、思考を深めるワークを行った。最後に質問の時間を設けると一人の生徒が手を挙げた。

 お祖父さんが市政刷新ネットワークだという男の子だ。そのお祖父さんとはXさんである。Xさんは市政刷新ネットワークの代表である。

 

 「実際には美術館は閉鎖になりました。文化よりも優先しないといけないものがあるというなら、市民劇団も解散しないといけないんじゃないですか」

 彼は、俺が市民劇団の指導をしていることを知っている。その上で美術館は廃止なのに、劇団は維持されるのは不公平だというのだ。…お祖父さんと同じような思考回路を持っているなと思う。ただ、ここではそういう個人的な感情ではなく、文化に携わる人間として俺が普段から意識していることを彼に問いかけようと思った。

 

 「僕は市民劇団の指導や運営をしているのはみんな知っていると思います。今回は、劇団の運営者として何を考えているかを説明します」

 「劇団の練習、公演はすべて市民会館で行っています。市民会館の中の練習場やホールを使っています。当然、使用料がかかります」

 「劇団は参加者から団費を頂いています。月2,000円です。練習で使うスタジオの使用料はこの団費から支払いをしています。別な言い方をすると、スタジオ使用料を団員全員で割ると月2,000円ということです。練習場使用料を団費という名目で集めていると思ってください。」

 「公演は年2回行っています。公演の際、一人1万円集めています。同時に1万円分のチケットを団員に渡します。このチケットを1万円分売れば個人負担は実質0円です。で、なぜ1万円かはもうわかりますね。ホール使用料やパンフレットの作成費を全員で割ると一人1万円なんです。」

 「市民劇団は市から1円も貰わずに運営しているのです。もちろん、市民劇団ですから使用料の減免措置は受けています。だから月2,000円、1公演1万円で済んでいるのは事実ですが、これは特別扱いではないです。みんなが合唱コンクールで市民会館を使っていますね。それと同じ減免措置です」

 「僕の机は市民会館にあって、市民会館の運営全体を行っています。僕の給料は、市民会館を運営する企業から出ています。市からは一円も貰っていません。もちろん、劇団員からもらうこともないです。市民会館の運営という僕のお仕事の中には、劇団指導も含まれているんです」

 「市民劇団は市の事業ですが経済的には自立しています。ちなみに赤字でもないです。そういう団体は統廃合の対象にはならないと思います。この点が美術館と違います。美術館は入場料収入では運営できず、年間2,000万円の赤字を出し、それを市に補填させていました」

 

 「僕は演劇人です。文化に携わる人間として美術館がなくなるのはとてもつらいです。でも、文化に携わる人間として美術館を作った人・運営した人に言いたいことがあります。なぜ赤字を解消する努力をしなかったのか、経済的に自立しようとしなかったのかです。経済的に自立していれば廃止にならなかったはずです」

 

                          つづく…