中学校ではこんなワークをした。

 少し前にあった「子ども議会」の振り返りである。

 題材は「美術館の維持か給食費の無償か」。

 「子どもにこのような選択をつきつけるのは酷い」という世論もある。

 それを否定するつもりはない。ポイントは「もう少し掘り下げて」みようである。

 まず、下の図を示した。

 

 「美術館の維持か、給食費の無償か」という論点は、海の上に出ている部分である。つまり、見える部分でしかない。

 見えない部分を意識すると、私たちが「美術館の維持か、給食費の無償か」という二者択一をしなければならない状況にあるのはなぜかという問いが生まれる。

 

 なぜだと思う…と中学生に問いかけるといろいろな答えが出てくる。

 「市長がケチだから」「市にお金がないから」「文化を大事にして欲しい」「この町にも経済格差が広がっている、だから給食費無償によって多くの人が救われると思う」「医療費や教育費を無料にすることで移住者が増え、人口が増えた町もある」「給食費を集めるという作業がなくなることで、先生方の負担も減るのでは」「給食費が無料になることで、量が減ったり味が落ちるのではという不安がある」「給食費無償化について親は喜んでいる」「いや、うちの親は反対している」

 そう…中学生を舐めてはいけない。大人が言うそうなことはすべて網羅されている。しかも、それはすべて正解だ。

 すべての意見を「ポジティブ・ネガティブ」に分類してもらった。

 その上で「なぜ二者択一しかできないのか」「美術館維持・給食費無償化両方を実現するためにはどうしたらよいか」「美術館維持のためにはどうすればよいか」という問いを投げかけた。

 中学生の意見は二つに分かれる。

 ・「市にお金がない」「市民にもお金がない(格差)」

 ・「市長がケチ」「貧しい時こそ文化が大事」

 

 一般的には、ここで正解不正解を決めるのだろう。多数決の世界だ。

 だが、上の4つの意見はすべて正解である。そこで4つの意見に共通することは何かと問いかけた。答えは簡単だ、お金だ。

 そこで市の予算がどのようになっているか、HPで調べてもらった。

 自分の意見の根拠となる事実をみつけてもらうのである。

 

 市にお金がない    …財政は赤字である

 市民にもお金がない  …税収が減っている(コロナの影響?)

 市長はケチである   …美術館や観光協会などの事業を削っている

 貧しい時こそ文化が大事…市になる前に美術館は建てられた

             赤字財政でも道の駅や市民会館を新築している

  

 この事実に基づいて、3人一組それぞれ「市長」「美術館を残して欲しいという市民の声」「給食費無償化を実現してい欲しいという市民の声」という立場で意見交換してもらった。

 異なる立場の人の考えを相互に理解するためである。

 これが水面下にある見えない部分への気づきになる。

 そこでワークをおしまいにした。生徒さんは「え」という顔をしている。

 

 ここで結論は出しません。なぜならすべて正解だからです。

 それらが正解であるという根拠も見つけることができましたね。

 3人で議論して、限られた予算・時間・人の数の中では、結論にも制約が生じるという現実もわかったと思います。

 ここから先はそれぞれが考えてください。僕は僕なりの意見を持っていますが、それは言いません。あまり大人が意見を言いすぎると、子供たちが考える余地が狭くなるからです。

 

 あと10分残っています。何か聞いておきたいことはありますか?

                            つづく…