(前回からの続き)

 僕とS市長とはこの中学で同期です。

 共通点は、この町で生まれ育ったこと、県庁所在地の高校に進学したこと、大学や就職で東京に出て、そこで「本物の文化」「一流の人」を知ったことです。

 また、この町には絶対に戻ってこないと思っていたのに、僕は31歳、S市長は37歳の時この町に戻ってきました。

 それは、この町にも本物があり、一流の人がいることに気づいたからです。

 

 みなさんは、そろそろ高校進学を考える頃だと思います。

 世の中には「偏差値」という価値観があって、それで優劣を決めようとする人がいます。たとえば、県庁所在地の高校は頭が良い、農業高校は成績が悪い奴が行くとかですね。この町の高校生はみんな頭が悪いとかいう大人もいます。

 

 でも、この町で「本物」のお米・野菜を作りたいと思えば、この町の農業高校に進むのが良いですよね。僕の父や姉がそうです。

 この町の「本物」のお米・野菜のおいしさをたくさんの人に知ってもらって商売にしたいと思えば、市外の高校に進む、県外の大学に進むのがよいかもしれません。そこでたくさん知り合いを作ること、商売や経営の方法を学ぶのです。

 

 また、人口減少時代の農業を支える勉強をする人も必要です。

 たとえば、理系に進んでプログラミングを学ぶことです。テレビドラマで見た人もいると思いますが、トラクターなども無人化が可能です。AIなども活用することで農業を少ない人数でも可能なものにするのです。

 また、農学部で発酵や醸造を学ぶこともありです。日本酒・ワイン、卵を活用した加工食品、パンなどの開発につながります。

 

 そうなると、料理学校に行ってパティシエやシェフになる人も必要ですね。東京や海外で修行して腕を磨いてからこの町にもどってきて、地元の本物を使った料理やケーキを提供するのです。

 そういうお店を出したい、自分のお店を作りたいと思ったとき何が必要かわかりますか。そうです資金です。銀行員に知り合いがいるといいですね。あと大工さんとかもいると安心ですよね。

 お店のホームページを作りたい時は僕に言ってください。僕の奥さんはwebデザイナーです。料金のおまけはできませんが、相談する時間はたっぷりとります。よろしければ僕が作った動画も付けます。

 

 みんな、成績とか偏差値とか、そういうものを一度手放して考えてみませんか。

 自分は何がしたいか、何ができるか、そのためにどうすればよいか。

 

 このクラスは32人ですね。10年後、20年後、みんなバラバラの場所に住み、それぞれの仕事や生活を送っているでしょう。でも、たとえばパティシエになった人が「地元に戻って本物のケーキを作りたい」と言った時、良い物件があるよ、資金の相談に乗るよ、リフォームするよ、通信販売のページ作るよ、うちの卵使って…ってなるとよくないですか。

 みんながそれぞれの人生を歩むことで、「32人集まればできないことはない」というチームができるのです。市長に頼る、町の偉い人にお願いする、町の予算を使うのではなく、同期の仲間で協力し合って個々の夢を実現するのです。

 それが32人分×3クラス×10年続いたら、この町はどうなるでしょう。

 

 そういう発想を頭の片隅に置いてください。

 勉強できるから普通高校、勉強できないから農業高校ではないのです。

 まず、あなたがやりたいこと、できること、そのために必要なことを言葉にしてください。その言葉に基づいて中学卒業後のことを考えましょう。

 これが「未来を根拠に考える」ということです。