市政刷新ネットワークのゴーストライターとして俺は大きな葛藤を抱えている。

 俺は、市長となったSとは中学の同期だ。ただ同じクラスになったことはない。話したこともない。だが共通点はある。同い年で、市外の高校に通い、県外の大学に進み、東京で生活したことだ。そこで知ったのは、「この町の常識は世間の非常識であり、世間の非常識がこの町の常識である」ことだ。

 もちろん、この町のすべてがいけないというわけではない。この町にはこの町の良さがある。では、この町の常識とは何か。この町の日常とはどういうものか。

 

 市の自主財源は20%そこそこである。

 あとは、交付金・補助金になる。そうなると、「県や国にパイプを持っていること、人脈を持つ人」が重視される。そして「補助金をたくさん引っ張ってくることがよい役人、そういうことができる議員がよい議員」ということになる。

 補助金は「マイニング」することが必要だ。補助金の対象となる事業を立ち上げる、もしくは事業にあった補助金を探す。この町のハコモノはそうやってできたものだ。たとえば、ある財団が体育施設の新設に補助金を出すと言えばプールを作るという流れになる。補助金を出す団体は作ってくれた市に感謝する。市民は新しくプールができたと喜ぶ。そして議員は「このプールは俺が作った」という。もちろん、プールの建設には自分と愉快な仲間たちの企業が参加する。

 

 プールが必要なのかどうかは関係ない。補助金を見つけて事業を起こし、足りない分は市の予算で補填する。引っ張ってきたお金は仲間で共有する。そういうビジネスモデルなのだ。

 この町に外から入ってくるお金は極めて少ない。外から入ってくる最も大きなお金が「交付金・補助金」である。ちなみに市の予算は約20億円(年)である。これをいかに自分のものにするかがこの町での経済的成功を左右する。では自分のものにするためにはどうすればよいか。

 市議会議員になればよい。そこで予算に口出しすればよい。

 あるいは、市議会議員と「お友達」になればよい。そこで利権を共有すればよい。

 

 市政刷新ネットワークの議員たちは、国会議員や県会議員などとパイプを作り、そこでは男芸者さながらに頭を下げ、彼らの持つ支援団体などに寄付をしたり、市の予算で支援金を払ったりする(そのための予算案を作成し議会で承認もする)。

 その見返りか、少し前市議会議員の一人が県議会議員になった。

 ただし、こうした日常は市の課題を解決するための活動でもなく、よい意味でのロビー活動でもない。

 癒着と利権の泥沼だ。あげく現職大臣から票の取りまとめを依頼され、現金を受け取っての市長・議長・議員の逮捕である。

 だがこれで話は終わらない。辞職した議長・議員は、次の市議選で当選し議員に返り咲くのである。それがW議員と山川さんである。

 これが、この町の日常である…。さすがに恥ずかしい。

 

 だが、これをおかしい、恥ずかしいと思っても、「お世話になっているから」「プールを作ってくれたから」「同じ町の出身だから」で流してしまう。

 選挙のたびに「5,000円」貰っている人は「秘密の共有」をしているわけで、自分の悪事が露見しないためにも、そして5,000円を貰い続けるためにも決して異を唱えない。

 

 こうした日常にメスを入れたのがSである。