この町にはプロサッカーチームの練習場がある。

 本拠地は県庁所在地にある巨大スタジアムだ。

 

 ここでユースチームの公式戦などもある。そういう日には県内から多くの観客がやってくる。もちろん、トップチームの練習日にも多くのファンがやってくる。これは前々市長が誘致したもので、俺としては数少ないすばらしい施策であったと考えている。問題は人工芝の劣化である。

 S市長は人工芝の交換を行った。クラウドファンディングで資金も集めた。

 さらに、交換した人工芝を希望者に譲渡するプランも提示した。人工芝は捨てれば産業廃棄物である。しかし、甲子園の砂のようにリブランドすれば欲しい人はそれなりにいる。サッカーファン、チームのサポーターにはたまらないだろう。 

 結果、人工芝はすべて譲渡となった。人工芝も新しいものになり、選手の肉体的な負担の軽減にもなった。

 

 市政刷新ネットワークはこれにも異を唱える。

 「なぜ、人工芝の交換が必要なのか」「交換費用をなぜ市が負担するのか」などの質問である。書いている俺も恥ずかしい。この質問をチームの幹部が聞けば、本拠地から車で90分もかかる場所からの撤退を決断するだろう。そういうことがわからない人たちなのだ。

 さらに市政クラブのP議員は、「人工芝の譲渡の際、なぜ市民を優先しなかったのか」という質問までぶつけてきた。たしかに、イベントチケットの販売では、「ファンクラブ~一般販売」という流れがある。今回も「市民~一般公開」という流れがあってもよかったかもしれない。

 ただ、これを担当しているのは市役所だ。専門のプロダクションではない。そもそもの目的は産業廃棄物になるしかない古い人工芝を利活用できないかというエコ的な発想だ。もちろん「市民ファースト」の発想を持ち込むことに異論はない。ただ、「次回そういうことがあったら…」でよいレベルであると思う。それを、人工芝交換の否定に結び付ける発言とするのはなぜか。

 市政刷新ネットワークの存在を意識していると言えるだろう。

 

 同様のことは、S市長が、市の名物を作ろうとして市民から公募した料理にもある。

 ごくごく大衆的な食べ物をリブランドしたのだが、市内でそれを提供する店舗は少ない。市長が作ったものなんか出さんという店主も多い。個人的に市長が嫌いという人もいるだろう。だが、それをメニューに載せた時何が起きるかを知っている店主もいるはずだ。その結果、料理は県外・海外の方が提供店が圧倒的に多くなった。そこに市政刷新ネットワークは存在しないからだ。

 

 俺はこの町が好きだが、この町から出たいという気持ちも強い。

 小学校の頃から感じてきたこの葛藤の原因が今、少しわかってきた。

 市政刷新ネットワークの存在だ。市政刷新ネットワークが結成されたのは3年前だ。だが、今所属している人々は俺が小学生の頃から議員だった。

 この間、勉強ができる奴はこの町を出た。市外・県外で仕事・家庭を持った人は戻ってこない。地域おこし協力隊の募集・採用・支援をしている人には「市長の友達・随意契約」といういわれのない疑いがかけられる。縁があってこの町で暮らすことになっても、引っ越し前から「使えないヤツが左遷されてこの町に来るらしい」と噂され、暮らし始めると「ご挨拶」がある。この町を離れる時には「裏切り者」と言われる。

 

 そんな町に、誰が住もうと思うか。

 さらに言えば、そういう閉鎖的・排他的価値観を「そんなこと言うものではないよ」と窘めるのが大人の役割のはずだ。しかし、閉鎖的・排他的価値観を持ち、「ご挨拶」という威圧行為を率先して行い市民を煽るのが市政刷新ネットワークの掟だ。最悪だ。