A町保育園の移転について、2人の若い議員がそろって「移転賛成」「田んぼアート事業跡地反対」を主張し始めた。

 この2人は40代で、前回の選挙で初立候補、初当選した1年生議員である。

 無印出店などS市長の提案には賛成を示している。さらに言えば、市政刷新ネットワークが反対・否決となった案件にはすべて賛成を主張している。世間的には「S市長派」と言われており市民からの人気も高い。そして、市政刷新ネットワークが結成された直後、二人は「市政クラブ」という会派を立ち上げている。

 S市長の人気が残り1年となった頃、市政クラブはある提案をした。

 「7月の市長選挙と11月の市議会選挙を同日開催にする。7月に市長選と議会選とを同時に行うことで市民の投票意欲を高めてはいかが」というものである。

 市長と執行部とはこの意見を支持した。同日開催にすると選挙費用は1,000万円以上削減できる。この提案は議会での審議の前、選挙管理委員会に送られることになった。

 この提案、市政刷新ネットワークは面白くない。W選挙になると票集めの費用が倍かかる。しかも投票率が高まることは市政刷新ネットワークには不利だ。次回の市議選には市政クラブ2人の仲間が複数立候補するだろう。若い人は若い議員に投票する。前回の市議選、2人の当選順位は1位と4位なのだ。

 

 しばらくして選挙管理委員会は、次回の市長選挙・市議会選挙の日程を公表した。

 W選挙ではない、従来通りの日程だ。この決定に市長は従うしかない。

 裏で、市政刷新ネットワークの面々が動いたことは言うまでもない。

 ここで動いたのは、市政刷新ネットワークの「議員ではない人」だ。議員の質問原稿のゴーストライターである俺は、山川さんとは打ち合わせをするし、議員とは少し面識はある。しかし、議員でない人と会うことはない。ただ、議員でない人がタウンミーティングに司会として潜り込み、市長を非難したりすることはあった。今回は、選挙管理委員会に誰かがいたか、圧力をかけた可能性が高い。

 

 そして、俺は山川さんに呼ばれた。

 地域おこし協力隊に関わる業務に不審点がある。これを次回の議会で追及するので原稿を書いてくれ。ただ、議会での質問は市長を攻撃するものにする。市政刷新ネットワークのブログの方では、市政クラブの一人の個人攻撃にしてくれ。

 その市政クラブの一人が、前回の市議選でトップ当選した人だ。

 東京出身、大学でこの県に来て、地域おこし協力隊としてこの町に来た人だ。

 彼は、地域おこし協力隊任期中に立ち上げたカフェを軌道に乗せ、地元猟友会に参加してジビエの普及などを行っている。地域おこし協力隊から定住して市議会議員になり、町おこしを進めているという貴重な人材である。

 そんな彼の業務の一つに、地域おこし協力隊の広報・募集・採用・採用後の支援がある。これは市から委託されたものだ。彼が初代の地域おこし協力隊としてこの町に来た時、採用は彼1人だった。その後、応募者・採用者が増え現在9人になった。

 そうなると市の業務としてそろそろしんどい。他の自治体では、地域おこし協力隊を集めても使い切れないという行政の問題も可視化されていた。そこで、初代である彼に業務を委任したのだ。

 それを「随意契約」「市長と市長派議員との癒着」とみなすのが市政刷新ネットワークの思考回路である。目的は不正の追及ではない。市政クラブの二人をつぶすことだ。