前々市長の時代からの懸案事項であるA町保育所の移転が議会で審議されている。

 もうこれで何度目だろう。ここまで、市政刷新ネットワークはすべて否決してきた。理由は「S市長の提案には反対するという市政刷新ネットワークの掟」である。

 A町保育所は、ハザードマップのレッドゾーンにある。移転は急がなければならない。それを逆にとって「移転を急ぐ状況で反対し続けるといういやがらせ」をしているに過ぎない。心ある人は、それが市政刷新ネットワークのいやがらせと理解できるだろう。しかし「移転を急ぐなら、市長が市議会と協調を図るべき」と考える人もいる。

 俺は、市政刷新ネットワークの人間の一人として断言する。逆だ。市長と強調すべきは市政刷新ネットワークの方だ。就任早々の市長に「議会の言うことを聞きなさい。そうでないと市長の提案は議会で否決しますよ」と言った人々だ。最初にケンカを売ったのは市政刷新ネットワークなのだ。

 そもそも、A町保育所の移転でS市長は議会とどの点で協調を図ればいいのだ。

 議会の過半数を押さえている市政刷新ネットワークは、「移転候補地である田んぼアート事業跡地で田んぼアート事業を再開させようとしている」「A町内に移転することで、市の予算による土地購入・土地整備を進めて、そこで利権構築をしようとしてる」のだ。どこに「協調・妥協・合意」を見つければいいのだ??

 

 そんな時、2名の若手議員が「移転賛成」「田んぼアート事業跡地反対」という主張をし始めた。

 彼らの主張は、「子供たちの移転は急ぐべきだが、今すぐ災害が起きるとは考えにくい」「移転先は現在保育園がある場所から近い方が良い。廃止が決まっている市営住宅に移転してはどうか」というものだ。

 

 この考え方は、2つの点でセンスがない。

 一つは防災意識の欠如だ。

 今すぐ起きないの根拠がわからない。また、A町保育所の移転について現在審議されているのは「基本計画作成のための予算案」である。予算案が今回の議会で採決されても、完成は3~4年先だ。今すぐではないかもしれないが、時間が経てば経つほど災害リスクは高まる。

 もう一つ、市営住宅の跡地という発想だ。

 市営住宅とは、昔の「雇用促進住宅」のことだ。国によるこの事業はすでに終了した。そして「ビレッジハウス」という民間企業がこの事業を受け継ぎ、低家賃の賃貸を提供している。

 家賃が安い理由は大きく2つ。雇用促進住宅は収入による家賃変動制が採用されていた。元々安いのだ。そして5階建ての住宅にエレベーターはない。風呂釜はバランス釜だし、給湯は瞬間湯沸かし器である。

 雇用促進住宅事業が終わった時、市はビレッジハウスへの移管ではなく、市営住宅として引き継いだ。建物はすでに50年経過している。維持にもお金がかかる状況になっている。Sが市長になって市営住宅の廃止が決まった。もちろん住人にはそのことを恨んでいる人も少なくない。まだ住み続けている人もいる。だが、同じ家賃で築10年以内、給湯設備のある賃貸が町内にあるのも事実だ。早々に引っ越した人も少なくない。

 

 さて、市営住宅は市有地である。したがって新たな土地購入は不要である。しかし、住宅を壊す費用と時間がかかる。また、住人の退去に時間がかかる可能性もある。周辺は住宅街で、その立地は利便性を考えるよい。しかし、広さなど教育環境を考えるとよいとは言えない。昨今話題だが「子供の声がうるさい」と言われる可能性も高い。

 若い二人は、「どうせ壊す建物なんだから、市営住宅の廃止と保育所移転とを一つにする」という合理性を主張しはじめた。