市議会が始まった。

 S市長と執行部の提案は、「A町保育所の移転を実現するための基本計画書の作成予算」を求めるものであった。

 論点は「計画書がないと予算請求も住民説明もできない」から。

 ごもっともである。

 

 これに対し、市政刷新ネットワークは別な論点で対抗する。

 「なぜ、移転先が田んぼアート事業跡地なのか」である。

 そもそも論点をずらすところがどうなの…であるが、これが市政刷新ネットワークの反市長団体たる所以である。もちろん、明確な理由が返される。

 

 ・A町市内に移転可能な土地は見当たらない。

  もしあったとしても、用地買収・整備に費用と時間とがかかる

 ・休眠市有地の活用は公共性が高く、費用の圧縮・時間の短縮も可能である。

  レッドゾーンにある保育所を一刻も早く移転し、子供たちの安全を確保したい。

 ・田んぼアート事業跡地は既に土地整備も完了している。

  ここに市民公園も併設し、認定こども園として開設する。

 ごもっともである。

 

 市政刷新ネットワークはいつもの三題噺で対抗する

 ・市民の了解を得たのか 

 ・現在A町保育所に勤務している人の賛同は得ているのか、納得しているのか

 ・財政再建の途中で、このように大きな事業は避けるべきではないか

 

 市政刷新ネットワークの主張に「子どもの安全」はない。

 S市長と執行部との主張の中心には「子どもの安全・防災」がある。

 この議論は果てしなくかみ合わない。だが、それが市政刷新ネットワークのねらいでもある。要するに時間稼ぎをしたいのだ。S市長の任期はあと1年である。

 

 市政刷新ネットワークはこの時、次回の市長選立候補者を決めていた。彼が次の選挙で市長となって田んぼアート事業を再開するという計画である。

 ただ、保育所の移転は必要であろう。その時はA町内で土地を探せばよい。市の予算での土地購入・土地整備というW議員・山川さんが得意とする錬金術がここで炸裂する。

 ちなみに、田んぼアート事業の用地購入価格は約6,000万円である。相場の2倍だ。約3,000万円がW議員、山川さんと愉快な仲間たちに流れたことは言うまでもない。A町保育所でも同じ利権構築をしたい。

 そのためには、とにかく時間稼ぎというのが市政刷新ネットワークの方針だ。

 

 さらにR議員が「昔話」を披露する。

 田んぼアート事業跡地はA町の外にある。5町が市に統合される時「旧町それぞれに保育所・小学校は残す・維持する」という約束事があった。それに反するという主張である。距離も遠くなる。送迎・通園時の安全の確保は、保護者の負担はと話を広げる。

 この質問を書いた俺が言うのもだが、この問いには正解がある。

 市に統合されてから現在までで人口は1万人減った。この状況を想定しての約束事ではないはずだ。旧5町それぞれに保育所・小学校を維持することは難しくなるだろう。通園の問題は大きいが、施設としての環境は統合した方が圧倒的によい。

 通園に関してはバスの活用が考えられる。一般的には「地元のバス会社への委託」「市でバスを購入し運転手を会計年度職員として雇用する」などの方法がある。

 

 保護者の負担ももっともだ。共働き世帯やシングルマザーにとってはきわめて厳しい状況である。ただ「町全体で子供を育てる、親を支える」という気持ちがあれば、勤務時間への配慮などが可能な部分もあるだろう。実際、市役所は開庁時間を30分遅くした。そのことで働きやすくなった女性職員も少なくない。

 そういうことも含めての「基本計画書」であるはずだ。

 計画書には、移転に伴って生じる課題とその解決案も示されるだろう。Sは、それをふまえて「この町ではどうするかを市民と一緒に考える住民説明会」を考えているはずだ。それも当事者である子育て世代と未来の子育て世代と一緒に。

 

 これに対し、市政刷新ネットワークは「移転に伴う新たな課題を反対理由」とする。そのことで子供たちの命が危険にさらされることには思考が及ばない。 

 理由は4つ。

 彼らは当事者ではない。

 彼らは市長を憎んでいる。

 彼らは田んぼアート事業の完成を望むXさんを畏れている。

 彼らはこの事業を自分の利権としたい。

 

 この町の未来は…。