A町の保育所の課題は、前々市長時代からあった。

 現地に行くとわかるが、建物の裏には結構な急斜面の山がある。

 ハザードマップでは「レッドゾーン」にある。土砂災害の危険性が高い。

 何でそんな所に建てたのだという責任論には意味がない。

 

 最近の自然災害は「今まで安全だった地域」に災害をもたらすケースが多い。

 この町も少し前の夏、集中豪雨に見まわれ市内の川が氾濫した。住宅街に水が押し寄せ多くの被害が出た。住宅街に水が来るなんてことは初めてだった。

 ちなみに豪雨災害前、市の貯金(財政基金)は約20億円あった。

 Sが市長に就任した時それは約4億円になっていた。多くは豪雨災害から復興という名目で使われている。ただ…市議会議員が市民にいい顔をするために大盤振る舞いしたという部分もある。もちろん財政基金は「こういう時のために使うもの」でもある。だから復興のために使う分には構わない。だが…である。

 

 そして保育所である。この町の市街地と言われるエリアで山が崩れたことはない。

 しかし、昨今は地震でも豪雨でも「山津波」の映像を見ることが多い。保育所の裏山でもあり得ない話ではない。

 保育所には0歳から5歳の子供たちがいる。自力で避難することは難しい。

 豪雨災害が予想される状況であれば保育所は休みであろう。ただ、雨で地盤が緩んで崩れることは、雨が上がってからでもあり得る。そういうことが予想されているからレッドゾーンなのだ。したがって、建物の老朽化も進んいる現状で、安全な場所に移転・新築という判断は当然なものであろう。

 

 市政刷新ネットワークが理解していないレベルの話がある。

 東日本大震災では、保育所・幼稚園・学校にも被害が及んだ。行政が「避難所」と指定していた建物にも津波が押し寄せた。あるいは避難の途中で津波にのまれたケースもある。そのことで、遺族が行政の責任を問う訴訟に踏み切ったものも少なくない。

 訴訟の多くは行政側の敗訴となっている。民事裁判なので賠償金が求められる。その最大の賠償額は10億円を越えている。

 彼らが想定できないのは、「行政はレッドゾーンにある保育所を放置していた」として遺族が訴訟を起こすことである。この場合、災害の発生は予見できたという判断になるだろう、保育所はレッドゾーンにあるのだ。

 

 行政が敗訴し賠償金支払い義務が生じた時、この町はどうなるか。

 遺族に賠償金を受け取る権利はある。だが、賠償金は市の税金である。そうすると、賠償金を受け取った市民に対する風当たりが生じる可能性がある。市民に分断が生じるだろう。賠償金の支払いは市の財政にも大きな負担がある。

 何より、それだけの労力とお金とを使っても失われた命は戻ってこない。

 最悪だ。

 

 市民の命を守るためにも、市の財政を守るためにも、早々に移転した方がよい。

 最悪のケースは国内で実際に起きている。一刻でも早い方がよい。

 だが、市政刷新ネットワークにそのような判断はできない。

 「今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫だ」と考えている。

 彼らが焦っているのは、「田んぼアート事業」の再開可能性が断たれることであり、Xさんのご機嫌を損なうことだ。

 こういう人たちが、この町を牛耳っている…、そのことに絶望を感じる。