高校生の探究学習の手伝いをする時、最初に人口動態の確認から入る。

 

 現在、日本全体の高齢化率は28%くらいである。

 これに対し、人口2万人の我が市の高齢化率は約42%である。

 ちなみに、現在の高校生が30歳後半になる2045年の予想がこれ。

 ・日本全体の高齢化率は約38%

 ・我が市の高齢化率は、約52%

 

 高齢化率だけを基準とすると、この町は日本全体より10年以上先に進んでいるといえる。高齢化先進市なのである。日本の未来がこの町にある。

 そして、人口動態、市の財政、自主財源率などを調べていく。ネットとPCとが生徒ひとりひとりにあるので、上手に検索すれば調べ学習はスムーズに進む。

 

 20年後、君たちはどこでどんな暮らしをしていると思う?と質問する。

 結婚して子供が2人とか、地元で家を継いでいるという答えがかえってくる。

 その頃この町の人口は? と質問すると調べたデータで回答できる。

 これを進めていくと、「市長の言っていること本当なんだ」というささやきが聞こえてくる。年代別人口構成を見ると、見事な逆三角形になっている。

 

 人口減少はこの町だけの問題なのか?と質問する。

  そうではない。日本全体の問題である。

 人口減少は日本だけの問題なのか??と質問する。

  そうではない。ヨーロッパの先進国でも同じ現象が起きている。

 人口減少を止めることはできるのか??と質問する。

  さすがの高校生も無言である。

 

 よくね、と俺は続ける。人口減少を課題として、人口を増やす目的の事業を行う自治体がある。移住者誘致・婚活事業とかね。でも、それで人口減少は止まったのか?町の人口動態はプラスに転じたのか? 

 みんなに考えて欲しいのは、「人口減少をどうにかしよう」というテーマで探究学習を進めることは、果たして有効なのかです。

 

 「人口減少という都合の悪い事実」を受け入れた上で探究学習を進めませんか。

 そうすると、「人口減少に備えた町づくりとは」という大きなテーマが設定できます。

 たとえば、全国の多くの自治体で移住者誘致や婚活事業を行っています。この事業を否定するわけではありません。ただそれで町の人口動態が減少から増加に転じた自治体はあるでしょうか? 

 給食費や子供の医療費の無償化で人口を増やしている自治体もあります。なぜこの政策が人口増につながったのか検証してみましょう。

 また、そういう事業を「人口減少に備えた町づくり」という視点で見直してみましょう。するとそれぞれの事業の有効性や意味が見えてくるはずです。

 

 最後に一言いいます。

 これは「学校で習ったことなんか、大人になったら役に立たない勉強」ではないはずです。なぜなら、20年後に現実にとしてみなさんの前に現れるからです。大人になって、仕事を持って、家庭を持って、子供を持った時、この未来はあなたの前にやってきます。

 その時、みんなが幸福であるためにはどうすればよいか、一緒に考えませんか。

 そのためにもう一度前提を確認します。

 

 「人口減少という都合の悪い事実」を受け入れましょう。

 「課題」は、人口減少に備えた町づくりです。

 「その場しのぎ」ではなく、「20年後の未来を想定した考察」を意識しましょう。

 

 今度、この授業を中学でもやることになった。

 姪の前でするのはちょっと気になるが、それ以上に気になるのは「お祖父さんが市政刷新ネットワークの生徒さん」である。彼はどんな反応を示すだろう。

 どう考えても、市政刷新ネットワークの主張を否定し、S市長の施策を肯定するような内容になる。そして、お祖父さんが誰かもわかる。