ある週末、俺と妻とは県庁所在地郊外にある巨大イオンに向かっていた。

 今日は姪も乗っている。イオンに着くと妻は無印良品に、姪は参考書や問題集を買いに書店に、俺はスタバで脚本書きである。

 

 県庁所在地の高校に行きたいと母に相談し、それを知った祖父母から「これで勉強しなさい」とお小遣いを貰って以降、姪のテンションは高めである。

 そして、「勉強なんかしても意味ねーし」という同級生に対する、普段言えない愚痴をしゃべり続ける。

 

 「だいたいさ、勉強するしないは勝手だけど、人のこと否定しなくていいよね。私は勉強しない選択した人のことをバカにしないし、そもそも勉強も米作りもどっちも大事だと思っている。なのに、あいつらは勉強しない選択を人に強制してくる。自分に従わない奴をバカにして言うこと聞かそうとする。本当にムカつく」

 

 「進路の時間に騒いで、俺は決まっているから関係ねーって言うのね。一度、決まってるってどういうことって聞いたの。そしたらね、俺の祖父さんは市政刷新ネットワークだから市長より偉いんだ。俺が高校卒業する頃には、市政刷新ネットワークがこの町から市長を追い出していなくなっている。そしたら祖父さんが俺をJAに入れてくれるっていうの。どう思う」

 

 「子ども議会でもさ、美術館の維持を訴えた中学生いたじゃない。あれもどうかと思うのね。いやどうかってのは、美術館の維持を訴えたことがいけないということじゃないのね。私もあの美術館時々行ってたし、あの町で暮らしていたら、何とか残せませんかって質問するのはありだと思うの。」

 「その時、S市長さんはちゃんと返答してくれた。それまで私たちは、町の財政なんて考えたことなかったし、道の駅や神楽の宿泊施設、新しい市民会館が次々できるから赤字財政だったなんて思いもしなかった。それどころか、お金が無尽蔵に湧いてくるみたいなイメージもあった。」

 「S市長さんは、美術館の維持には年間2,000万円掛かることを教えてくれた。たしかに、美術館いつも空いていたから入場料で賄えるわけない。利用者も限られている。観光客が来るわけでもない。でね、給食費無償化には総額で1億円かかる。そのうちあなたの町の分が2,000万円だ。美術館を維持するか、給食費無償にするか、どっちにするって」

 「私、あの子ども議会参加してたんですよ。あの後、みんなで言ったのは、市長だって美術館つぶしたくないし、給食費無償化も実現したい。でも、どっちかしかできない。その時、個人の感情ではなくて、市長と言う立場で考えるんだなってこと。それが最大の学び」

 

 「我が家ってさ、農家だけどおじさんは早稲田でしょ。中学生になると我が家はいい意味でちょっと変わってるってわかるの。経済的には豊かな方で、身内に大学行った人がいるって家に生まれた私はかなり恵まれていると思う。勉強ができる同級生には、親からも勉強より家のことを手伝えって言われている人も多いし、大学進学を反対されてる人もいる。」

 「中学になると家庭の経済状況が見えてくるの。ふとしたことで、あの子給食費払えないんだとか、生活保護受けているんだとかわかる。その人数がクラスの二桁になる。この町の経済格差はだいじょうぶなの」

 「あとね、最近この町にコンビニができ始めたでしょ。夕方行ってみて。バイトしているの高校生だよ。その中には、大学受験の費用を自分で稼ぐためにバイトしている子もいる。勉強したい子が、バイトしないと勉強できないっておかしいでしょ。だから、美術館よりまず給食費無償化なの。」

 

 「そのことで、お祖父さんが市政刷新ネットワークっていう子とこないだ喧嘩した。その子は、市長の言い方が気に食わないとか、中学生に美術館か給食費か迫るのは大人として問題があるとか言うけど、その場にいた各中学校の生徒会メンバーはすごく納得してたんだって言った」

 「そもそも市長ってのは市民が選挙で選ぶものでしょ。市政刷新ネットワークが追い出すって何?? だったらお祖父さんに言って、市長に不信任案出せばいいじゃん。でも、こないだ出さなかったじゃんって言い返してやった。ざまぁみろ」

 

 姪のこの気の強さは誰の血をひいたのか。