5歳上の姉は、父の母校である地元の農業高校を卒業して、そのまま家業の農業を継いでくれた。

 結婚して生まれた長男は、母である姉に似てサッカーと農業が好きで、地元の農業高校に進んだ。親子三代卒業生である。我が家を継ぐのは彼だろう。

 5年後に生まれた末っ子である長女は俺に似て勉強と読書が好き。漫画とアニメも好きでオタク気質なところがある。俺が誕生日にプレゼントしたi-padでずっとイラストを描いていることもある。

 

 この長女(俺からすると姪っ子になるが)、ちょっと相談があると言う。

 俺が卒業した高校に行きたい。そこで演劇部に入りたいと。

 俺の母校は男子校だったが、少し前共学になった。共学になって入試難易度は増したが、文化部は女子の入学で部員数が増えた。吹奏楽は県大会で金賞を取り、放送部は全国大会まで進んだ。演劇部も県の演劇コンクールでかなり上位まで進んだと聞いている。

 本当は市の劇団に入りたかったそうだが、身内が指導しているので…だそうだ。 

 それは申し訳ない。でも、俺も姪がいたら少しやりにくかったかも。

 で、相談ってのは??

 

 相談できる人がいないと言う。

 クラスには、勉強が好きで大学まで進みたいと考えている仲間もいるが、それは少数派だ。大学進学まで考えている仲間のうち、男子は県庁所在地の進学校や私立高校、中には県外の高校を考えている者もいる。しかし、女子だと地元の普通高校か、自宅から通える県庁所在地の高校になってしまう。ちなみに、自宅から通える県庁所在地高校とはSの母校だ。

 そして、俺の卒業した高校に行きたいと人に言うのは、俺が初めてだと言う。

 怖くて誰にも言えない…と。

 何が怖いのかと聞くと、馬鹿にされそうだと言う。

 

 勉強なんかしても意味ねーし…という生徒がクラスに数名いて、その数名がクラスの空気を支配している。高校の話や進路のことを考える授業では「俺は決まっているから関係ねー」と騒ぎ出す。勉強や生徒会活動を頑張っている生徒のことは徹底的にバカにしてくる。先生方も少し困っているようだ。

 ああ…と思った。この町は何も変わっていない。俺の中学時代と同じだ。

 ただ、俺は中3の担任に救われた。その先生は県庁所在地の中学から異動してきた先生だった。お前の学力なら受かるから頑張れと言ってくれた。あの一言がなければ俺もどうなったかわからない。

 今は俺が励ます立場なんだなと思う。

 

 学校では黙っていてもよい。最終的には中3の担任に伝えれば大丈夫だ。

 ただ、早いうちに家族には伝えた方がいい。

 大丈夫だ、お母さんやお祖父さんは馬鹿にしないし反対もしない。俺があの高校に行く時、味方になってくれたのは家族だったんだ。

 ただ、心配はするかもしれない。俺がいた頃より偏差値は上がっているし、何より女の子の一人暮らしってのを不安に感じると思う。アパート借りたりも必要だしな。

 

 とにかく、勉強に集中しよう。県庁所在地の暮らしのことは、ちょっと考えていることがあるから応援できると思う。実は、県庁所在地に部屋を借りようと思っていたんだ。何なら、そこから通えばいい。ただ、俺と俺の奥さんが時々いるけどいいか。

 

 姪は翌日、母に相談したらしい。

 母、つまり俺の姉は「長女は地元の高校には行きたがらないだろう」と思っていたらしく、できることは何でもするけど勉強のことはわからないからおじさん(俺)に相談しなさいと言ったそうだ。と言うことを俺に行って「娘のことよろしく」ときた。祖父さん祖母さん(つまり俺の両親)は、それを知って「これで問題集を買いないさい」とお小遣いを渡したそうだ。

                         つづく…