Y女史が、「自分の発言を恫喝とTwitterに書いたことは私の名誉を傷つけた」として訴えた裁判、通称「恫喝裁判」が始まった。主訴は名誉棄損である。

 

 俺は、この裁判はY女史が不利であると思っていた。

 「議会の言うことを聞かないと、市長の提案はすべて議会で否決しますよ」という発言は、現代の価値観なら十分に脅しである。それが非公開の場で、議員12:市長1という状況で発されたことは、脅しであることを裏付ける。

 この時のY女史の発言の音声もある(誰が録音したかはわからない。念のため、録音したのはSではない)。この音声はTVニュースで流れている。議会の場で「言い過ぎた」という複数の議員の発言がある。この発言は市議会の議事録に残っている。

 さらに言えば、無印出店や2人目の副市長人事など、市長提案の多くは否決されている。あまり話題にはならないが、議会のコンプライアンス条例や予算案の一部も否決されている。つまり、議会の言うことを聞かない市長の提案は、Y女史の言う通り否決されているわけだ。

 

 だが、俺が考えているより「行政の責任」は重いことを知った。 

 そうなると、恫喝なのか、名誉棄損なのか…ということよりも、「Sが市長であること」が判決の大きな要因になる。

 

 市政刷新ネットワークのゴーストライターである俺が傍聴をするわけにはいかない。裁判の経過は山川さんとの会話の中で断片的に知るだけだ。

 そんなある日、山川さんがぼそっと、「あの裁判な、裁判所が和解勧告出してきたんだよ。どうするかW議員と相談しているんだ」と言った。

 どういうことですか…と返すと、言葉を濁して話題を変えた。

 

 その夜、俺は大学時代の友人にメールを送った。

 早稲田の文学部で同期だった友人だ。彼は文学部を出た後法学部に編入し、今は東京で弁護士をしている。彼は司法浪人、俺は売れない役者として貧乏生活を送っていた頃、励まし合った仲である。

 返信には、数日後の夜の時間が記されていて、この時間ならZOOMで話せるとあった。アドレスも付記されていた。

 本当は30分1万円だけど、他ならぬお前のことだから、飲みながらということで…と記してあって文末に(笑)とあった。

 

                       つづく