無印出店と副市長のことは、次の定例市議会でもう一度議案になった。

 提案者は賛成した5人の議員である。

 

 「無印出店と2人目の副市長就任を何とか実現できないか」とS市長に質問した。

 Sはこう答えた。

 「良品計画との契約は継続している。ただ議会が否決したので先には進めない」

 「市長・執行部は、反対した議員に反対理由を教えて欲しいと呼びかけているが返答がない。つまりこの政策の何がいけなかったか執行部はわからない。特に2人目の副市長については、その予算を議会で承認しておいて、人事には反対するという状況をどのように打開すればよいかわからない。反対した議員の方々に教えていただきたいと再三お願いを伝えているが、返事がない」

 

 「人口2万人の小さな町に、良品計画のような大きな企業が来ることはもうないでしょう。議会が否決したという状況を見て、この町に出店しようと考える企業が今後あると思いますか、そういう人材が来ると思いますか」

 「議会はYouTubeで配信されています。そのアーカイブはネット上に残ります。後世の人が、アーカイブを見て今の議会の状況を知った時どう思うでしょう。」

 

 「今の議会の状況を見た後世の人々は、きっと恥を知れ、恥を…と言うでしょう。市の発展や市民の希望を打ち砕き、議会の掟を優先した議員の方は、今回の責任をどのように取るおつもりなのか、よくお考え下さい」

 「そして議会の様子をご覧の市民の方々にも申し上げます。これが議会の実態です。ただ、こういう議員を選んだのは市民です。市民の選択がこの議会の状況を生んだとも言えます。市民ひとりひとりが市の未来を考え、政治に関心を持ち、自分の意思で投票することが大切なんです」

 

 市政刷新ネットワークは、「副市長を1人に戻す提案」をこの議会に出していた。

 提案理由は「市の財政逼迫による予算縮小」だ。

 もちろん、この理由を信じる人はいない。無印出店と副市長案を根本からつぶすための提案に過ぎない。

 賛成6:反対5で、副市長を1名に戻す提案は可決された。

 

 1週間後、朝のワイドショーで「企業誘致と全国公募で選ばれた副市長とはなぜ議会で否決されたのか」というタイトルで、この件の経緯が取り上げられた、全国放送だ。テーマは地方議会の実態…。議員による市長への恫喝、居眠りする議員、収賄で逮捕された議員が次の市議選で当選してしまうこと…なども含めたかなり長尺の扱いだった。

 スタジオのコメンテーターは、当然議会・議員に対して批判的であった。

 そして、Sが議会で言った「恥を知れ、恥を」が切り取られてパワーワードとして広がった。

 

 他のテレビ局や、夜10時以降のニュース番組、週刊誌などが「恥を知れ」と議会で叫ぶ若き市長を取り上げた。

 市の公式YouTubeの登録者数・視聴回数が急激に伸びていった。