定例市議会が開催された。

 市長・執行部から無印出店と副市長に関する再議が提案された。

 Sは以下のことを述べた

・無印良品の出店は当市の経済的発展を導くと期待できるものであること

・無印良品と市の産業との連携(官民連携)は2人目の副市長が担当すること

・副市長候補者は、官民連携事業の経験、実績がある人物であること

・契約で専決権を行使したのは、次の議会開催まで待つと契約が流れる可能性があったからであること。

・具体的には他の自治体への出店計画があったり、開店時期が冬にかかることを良品計画が避けたいと考えていたということ。

・前回の議会で「副市長候補者と言ってもよくわからない人だから反対」と述べた議員がいる。市長と執行部は議会開催前に候補者本人との面談や質疑応答の時間を設け実施していた。しかし伝えた時間・場所に反対した議員だけが来なかったこと。

・前回の採決は、恣意的にコントロールされたものと考えられること。議員の中に、反対理由を「議会の掟」と言った者がいる。その言葉はテレビで放映され市民の間にも不信感が高まっている。

 

 「議会には掟がある」と言った議員が発言を求めた。

 しかし、その内容は支離滅裂で、youtubeの画面を通しても動揺し、大汗をかいているのがわかる。

 それはそうだろう、目の前には提案者である市長がいる。

 議席には、市政刷新ネットワークの議員が5人いる。

 傍聴席とyoutubeの向こうには、無印良品出店を望む市民がいる。

 しかも、彼は無所属だ。もし市政刷新ネットワークの一員であれば、俺が言い訳を考えてやることもできる。だが、無所属の彼は孤立無援、四面楚歌、前門の虎後門の狼状態である。

 

 人々に「こいつはクロ」という心証しか残さない言い訳の時間が終わると、市政刷新ネットワークに所属する女性とR議員とが質問に立った。どちらも前回の議会で初当選した1年生議員、つまり「鉄砲玉」だ。俺が書いた原稿をそのまま読んでいる。

 S市長は「専決権を行使した理由は、冒頭で述べています」と簡潔に答弁した。その通りだ。すると女性議員もR議員も、市長の独裁・議会軽視・観光協会を解散させその後に無印良品が入るのは陰謀ではないかという感情論を展開する。

 Sがうんざりしているのがわかる。

 

 賛成派の議員は、独自に実施したアンケートでも6割以上の市民が出店を望んでいること、もし専決権の行使が瑕疵であっても民意を優先すべきではないかと主張した。もちろん、この主張に市政刷新ネットワークの議員は反論できない。

 山川さんがある市民グループから「良品計画の出店に理解・賛同して欲しい」とお願いされ、「無印の文具ならファミリーマートにあるでしょ」と返答したことを暴露された時は、傍聴席からどよめきと失笑とが漏れた。そして賛成派の議員は「専決権の瑕疵と民意とどちらが優先ですか」と反対派の議員を詰め、「民意です」という言葉を引き出した。

 賛成派の勝利だ。

 

 それを見ながら、我ながらすげーなーと思った。

 俺が考えたシナリオ通りではないか(笑)。

 俺が市政刷新ネットワークのための原稿を書く時に想定したことがほぼあたっている。完璧だ。

 

 だが、採決は賛成5:反対6で再度否決となった。

 ここだけは、俺のシナリオと違った。

 勝ったのは、議会の掟だった。