地元テレビ局が制作・放映した「議会の掟」は大きな反響を呼んだ。 

 大手週刊誌も「地方議会の実態を暴く」というテーマで取り上げた。

 市政刷新ネットワークの後援者の中にも「なぜ反対した」という意見が広がっている。「議会には掟があるんだ」と口を滑らせた議員は、W市議と山川さんに詫びをいれたらしい。最年長議員であるWさんと最多当選議員である山川さんに目をつけられると、この町で生きていくことは難しい…。

 

 S市長は、無印出店と副市長人事の採決に「不正があったのではないか」というコメントを出した。市政刷新ネットワークが市議に圧力を掛け、採決をコントロールしようとした疑いがあるという(そのとおりだ)。

 そして「無印良品出店に関する市民アンケートを行なう」と宣言した。そのアンケートで出店を望む市民が過半数を超えた場合、次の市議会で再議に掛けるという。

 執行部が行った公式アンケートでは「出店を希望する市民」が全体の60%を超えた。提案に賛成する市議が独自に行ったアンケートでも同じ結果が出た。

 

 山川さんは俺に、「次の市議会の代表質問の原稿を書いてくれ」という。ただし前回と同じ論点では市長には勝てないだろうから、新しい論点を出してくれと言う。

 俺は、S市長が良品計画との契約で「専決権」を行使したことを論点としようと考えた。理由は2つ。

 

 一つは、Sが専決権を行使したのはやむを得ないと考えられるからだ。

 民間企業の仕事のスピードは速い。良品計画が調査・検討を経て「契約しましょう」とS市長に伝えた時、次の議会開催まで待っていられない事情があったはずだ。考えられるのは、「近隣自治体への出店も検討しているケース」「開店時期の問題」だ。もし人口15万の隣市への出店計画もあったならば、人口2万人の我が町に出店するよりもリスクは低く利益は高いはずだ。ただ、こういうケースは「早い者勝ち」である(後の話だが1年後、隣市に無印良品が出店した)。

 また、開店には道の駅の改修、店員の募集やトレーニングなどの準備が必要である。その期間を経て開店するのが寒い冬であったり、まして商売に向かない2月だったりすることは避けたいはずだ。

 そういう事情を勘案すれば、Sが専決権を行使したのはやむを得ないことであると言える。

 

 もう一つは民意の存在だ。

 専決権の行使が認められない、つまり「手続き上の瑕疵」とみなされたとする。

 しかし、手続き上の瑕疵よりも民意を重視するのが公共的判断である。

 専決権の行使が瑕疵であったとしても、民意が無印良品の出店を強く求めるのであれば、それを認めるのが市議会のあり方だ。

 

 つまり、専決権を論点とすれば…

・専決権の行使が認められる→無印も副市長も承認となる。

・専決権の行使が認められない→民意がそれを求めるのであれば、手続き上の瑕疵よりも民意が優先される→無印も副市長も承認となる

 というわけで、いずれにしても市長・執行部の提案は通るはずである。

 

 もちろん、市政刷新ネットワークの人々は何も知らない。山川さんはきっと俺の書いた原稿を市政刷新ネットワークの誰かにそのまま読ませるだろう。市政刷新ネットワークは専決権や公共倫理についての無知を、youtubeで自ら全世界に晒すことになる。

 そして、心ある人ならS市長・執行部・市民が正しいことが理解できるはずだ。

 

 これが面従腹背を決めたゴーストライターである俺ができることだ。