無印良品の出店と、全国公募した副市長人事とは、議会で否決された。

 賛成5:反対6だった。

 Sが市長になって、初めての否決案件だ。

 無印出店に期待していた市民は落胆している。

 

 議会が終わって2週間後、地元テレビ局がこの話題を深掘りした番組を流した。番組名は「議会の掟」。ハイライトは、反対に回ったある議員がカメラに追いかけられ、逃げつつ「議会には掟があるんだ」と叫ぶシーンだ。

 

 ついにマスコミによって地方議会の実態が問題提起された。

 居眠り議員のこと、議員の代表質問が市役所の職員によって代筆されていたこと、無印出店を望む市民の声、市政刷新ネットワークの存在などが取り上げられていた。Sの市長就任直後「議会の言うこと聞きなさい。そうじゃないと議会ですべて否決しますよ」と言った女性議員の発言も取り上げられていた。どこから入手したかわからないが、その音声も流された。

 

 市政刷新ネットワークは、「企業誘致という大きな事案は、企画段階で議会に報告・相談すべきだ。それがないのは市長の独裁だ、議会軽視だ」と主張する。山川さんは、それを(恥ずかしげもなく)番組でも述べていた。

 市政刷新ネットワークのおじさま、おばさまたちは、何もわかっていない。

 俺だって、映画やテレビに出る時は「守秘義務契約」を結ぶ。平たく言えば「情報解禁日まで、作品について黙っていること」だ。もちろん、自身が出演していることも言えない。

 良品計画も、S市長と交渉の間「この町で出店してだいじょうぶかという調査」が必要だろう。その結論が出て正式契約を交わし、定められた情報解禁日までは「守秘義務」が両者にあるはずだ。情報解禁しないと市議会に伝えることも、市議会で承認を得ることもできない。したがって契約は市長が専決するしかない。

 それを「独裁、独走、議会軽視」というのは無知からくる感情論に過ぎない。

 

 「議会の掟」はパワーワードとなり、全国規模の週刊誌の記事にもなった。

 テーマは「地方議会の実態」である。

 悪習にまみれた地方議会の実態を暴いて欲しいと心の底から思った。

 今、ふるさとの町に必要なのは、W議員や山川さんに怯えることなく、もっとこの町を良くしようという声をあげること、S市長の施策を理解できる人が声を出すことなのだ。

 

 俺は市政刷新ネットワークのゴーストライターとしてどうすればよいか考えた。

 結論は、面従腹背だ。

 表面的には山川さんの指示に従いつつ、市政刷新ネットワークの主張をもっと感情的でバカバカしいものにしようと思った。市政刷新ネットワークはまともではないなとわかるほど、荒唐無稽な主張にするのだ。

 市議会はYouTubeで生配信されている。市内だけでなく、全国に市政刷新ネットワークがS市長とこの町の未来を破壊していることを伝えるのだ。