中学の同期で3年間成績1番だったSがふるさとの町に戻ってきた。

 市長となって、市議会の正常化、財成赤字の立て直しを進めている。

 卒業成績2番だった俺も、31歳の時ふるさとの町に戻っていた。新しくできた文化会館に机があって、市の芸術振興、中高生の劇団の立ち上げと指導が俺の仕事だ。あと町おこしに関わる仕事を副業的に引き受けている。最近は、中高生の探究学習の支援もしている。そして今年から、市政刷新ネットワークという反市長団体の事務局に入った。念のためだが、俺の思想・信条とは関係ない。反市長という考え方に賛同したわけでもない。断れない人間関係と生活費のためだ。あくまで「仕事」だ。

 

 市政刷新ネットワークでの俺の仕事は、市政刷新ネットワークの議員が市議会で行う代表質問のゴーストライターである。ふるさとの町の市議会議員には、事業で成功するか市役所で退職した人が多い。つまり「人生の上がりで最後に就任する名誉職」と言える。その結果が、「赤字財政」「ハコモノ行政」「国会議員に票のまとめを依頼され、お金をもらって逮捕からの議員辞職」である。

 市長となったSは、「市議会の正常化」「ハコモノ行政からの脱却」「政治刷新」を進めた。当たり前だ。これで俺の町もまともになるだろう。

 しかし、そんなSに対して怒りを向ける議員がいる。赤字財政・ハコモノ行政を進めて私腹を肥やし、お金で票を買って議員になった人たちである。そういう人が「市政刷新ネットワーク」を立ち上げた。そんな議員を支持する市民なんかいるのか…と思っていたが、意外と多かった。

 

 Sは、2人目の副市長を「全国公募」とした。副市長は一般的には市長が引っ張ってくることが多い。それを「公募」とした。政治の透明性と優秀な人材獲得の可能性を高めるよい方法だと思う。

 しかし、副市長2名制にしたのは、現在市政刷新ネットワークに参加している議員の悪知恵である。2名制にしたのは前々市長が引退を表明した時だ。その時、「次の市長が自分たちの言うことを聞かないヤツだった時、自分たちの息のかかった人間をもう一人の副市長として送り込む」というのがその目的だ。公募制になると、それが難しくなる。

 

 S市長は、ネットの転職サイトも使って公募を進めるという。優秀な人材を獲得するためには効果的な方法だ。しかし、市政刷新ネットワーク的には、ネットで公募という点が理解できないようだ。その結果、反対の論点がこのようになった。

 「ネットやスマホが使えない人間が応募できないのは、平等・公平の原則に反する」

 自分で書いていて恥ずかしい。

 市の未来を託す人、副市長として高額な給与を貰う人が、ネットもスマホも使えない人でよいわけがない。今どきは大学入試だってネット出願である。その意味は「ネット環境とPCスキルを持つことが大学で学ぶ前提ですよ」というメッセージだ。

 しかし、それを無視して「平等・公平の原則」を論点とした。

 あまり知的レベルが高くない人ほど、幼い正義感を振りかざす。そういう人に「平等・公平という言葉」は伝わりやすいはずだ。共感も生むだろう。そうすれば、市政刷新ネットワークの支持者は増え、市長への反感も高まる…というのが俺の町の現実…だ。

 

 書きながら自分に言い聞かせた。これは仕事だ。割り切るんだ。