国会中継の代表質問を見ていると、現職の大臣が質問に答えられず、後方に控える官僚からメモが差し出されたり、官僚本人が答弁に立つことがある。

 大臣しっかりしてくれよ…と思うが、これが俺の町の市議会では逆であった。

 俺の町の市議会では、代表質問をする議員の質問を市役所の職員が書いていたのだ。いろいろな見方があるが、どうやら「市議会議員には質問を考える能力がない」「市議会で討議するまでにすべては決まっており、議会は儀式に過ぎない」ということがわかってきた。

 Sが市長になってこの悪習は終わった。「市議会はガチな討議の場」となり「議員はそのための質問書を作成する」ことになったわけだ。

 まさに「議会の正常化」である。Sの市長としての考え方は実にまともだ。しかも、こういう長年の誤った慣習を正すことができる人は、意外と少ない。

 だが、市政刷新ネットワークの人々は怒っている。答弁能力・文章作成能力が低いことを棚に上げ、S市長は横暴だ、独裁者だと後援者に言いふらしている。その裏で、代表質問は俺に書かせている。

 

 今書いているのは「市における災害対策」についての質問書である。しかし、その中身はS市長の個人攻撃に過ぎない。経緯はこうだ。

 8月、市を台風が直撃した。かなり大型の台風で接近前からテレビでは注意や対策が喚起されていた。俺の町を台風が通過したのは月曜日の深夜から火曜日の早朝にかけてだが、本州の上を移動する間に勢力は弱まり、火曜日の朝には低気圧になっていた。町にも被害はなかった。

 S市長は、金曜日には副市長を本部長とし、危機管理官が補佐する体制を立ち上げていた。天気予報によると、市を直撃する可能性があるのは月曜日から火曜日にかけてあるが、休日である土日、副市長や危機管理官は市役所で待機していた。S市長も月曜日は市役所におり、台風が通過する火曜日の朝まで待機し、市内に被害がないことが確認できた夕方、対策本部解散の指示を出している。

 

 ただ、市長は日曜日、県外のトライアスロン大会に参加していた。

 市政刷新ネットワークの人々は、「台風が接近し、関係職員が市役所で待機する中、市のトップである市長が町を離れるのは問題である」という言い出した。

 つまり「市の災害対策という議案の論点」は、「台風が接近する中、市長が趣味のトライアスロン大会に参加したことに対する責任を問う」になる。

 

 個人的には、いまどきは何でもかんでも市長・市長・市長という時代ではないと思う。市役所内には各専門部署もあり、その人間が最前線に立つ。市長は集まってきた情報を整理し、その権限での決済が必要な時指示を下せばよい。先頭に立つリーダーではなく、チームが働きやすい環境を導くファシリテーターのような存在でいいのだ。その方が部下が育ち、チーム力が高まる。

 しかし、市政刷新ネットワークの人々にはそんなことは理解できない。

 市長はリーダーであり、常に先頭に立って…というあり方を求める。

 そして「災害時における市長のあり方」を問い、プライベートを優先した責任を追及しようというのだ。

 そもそも、市長の責任を追及することが災害対策なのかという疑問はある。しかし、ここでも俺は「仕事」と割り切ることを自分に言い聞かせた。