大学時代の友人で、Sと同じ銀行に勤めている奴がいる。

 友人と飲みながらZOOMでしゃべっていた。俺も酔いが回ってきて、こんなことを聞いた。

 「Sが銀行を辞める時、引き留めとかそういうのはなかったのか。Sが優秀なら誰か引き留めるだろう」

 

 「あのな、うちの銀行では中途退社とか転職というのはよくあることだ。政治家への転身も珍しいことではない。国会議員の子弟がうちの銀行に就職して、親父の地盤を継いで選挙に出るから退職ってこともある。そいつはいきなり国政・国会議員だけどな。調べれば与野党の政治家にうちの銀行OBは結構いるはずだ」

 「だから、優秀でもそうではなくても、辞めるという行員を引き留める文化はうちにはない。それどころか優秀な行員は社会に還元する、人材提供するという考えもある」

 「Sは優秀だったから、市長として古巣の銀行に相談に来れば、OBとして支援することになると思う。ただな…」

 

 「Sはエリートだと報道されているが、俺たちも本人もそうは思っていないぞ。それはマスコミが勝手につけたイメージだ。東大卒・京大卒なんてのは銀行内にはぞろぞろいる。海外大学出身とか修士や博士持っている奴だっている。さらにいえば、頭取や役員になりそうなヤツってのは入行した段階からちょっと扱いが違う。」

 「Sは学部卒だし、そういう扱いを受けてもいない。優秀なのは間違いないがエリートではない。俺と同じ普通の行員の一人に過ぎない。ただ、その実力はみんなが認めている。あいつは人当たりもよいし、根回しがうまくて周囲への気配りもある。数字に強くて、論理的な思考力が高く、結果も出せる」

 

 「繰り返しになるけど、Sはエリートではない。普通の銀行員。でも人口2万人、20億円規模の自治体の会計なんかはお手の物と思うぞ。赤字の原因を特定し、事業誘致で自主財源を作って財政を立て直すくらいは簡単なことだ。それくらいのことができる人材ならうちの銀行にはぞろぞろいる。逆に言えば、それくらいのこともできない奴が、国会や地方議会で権力を握っているってことだ。これが日本が滅ぶ原因よ」

 

 最後の言葉が身に染みた。

 そのとおりだ。うちの市長や市議会議員は財政赤字を放置したまま、文化会館や道の駅を新設している。民間なら、銀行からの融資は断られるような案件だ。

 

 市議会はどうなるのだろう。普通の銀行員だった市長と、そんなこともできない市議会議員との対話は成り立つのだろうか。しかも、そんなこともできない方が権力を握っているのだ。