大学のゼミの同期に、市長となったSの前職であった銀行に勤務している友人がいる。

 ZOOMでしゃべった。便利な時代だ。こんな田舎に居ても東京の友人と話せる。手元には酒を置けば、居酒屋でしゃべっているのと気分的には変わらない。

 Sは銀行で何をしていたのかと聞くと、「一言で言えば未来予想だ」と言う。

 

 明治以降の日本の経済発展は人口増によるものと言ってよい。しかし、人口減少が進む今、人口増時代の価値観で経済が発展することはない。ただし、人口減少は日本だけでなくヨーロッパの主要国でも進んでいる。だから、ヨーロッパの主要国は人口減少を前提とした新しいシステムの構築を進めている。

 一方、かつて後進国と言われていた国の人口は増えている。そして人口増を背景とした経済発展が進んでいる。

 なんだか難しい話になってきたが、俺が学生時代、教科書で学んだ世界秩序は過去のものとなりつつあるようだ。そして、新しい世界秩序を分析することや、人口減少時代の日本で経済発展をどのように導くのかを考えるのがSの担当業務だったということは理解できた。

 

 未来ってどうやって予想するのと聞くと、日本政府や国際機関が、それぞれの人口動態予想をネットで公表しているから、まずそれを見ろという。

 

 俺はその時、初めて日本の人口動態予想のグラフを見た。100年後の日本の人口は、3,000万~4,000万人と予想されていた。これは本当なのかと友人に聞くと本当だという。1/3だぞ。今の韓国より少ないぞ。

 「昭和40年代に、現在進んでいる日本の人口減少は予想されていたんだ。そのことはいろいろな資料にあるし、小説に書かれたこともある。ただインターネットとかない時代だからこの情報は埋もれてしまったともいえるし、無視されたとも言える」

 「今進んでいる人口減少は、昭和40年代に予想された人口減少とほぼ同じだ。つまり昭和40年代の分析はかなり正確と言える。今改めて分析しても同じ結果だ。」

 

 そうか、俺の町でも少子高齢化という言葉はよく聞くが、その根源には「人口減少」があるのだ。人口減少は、俺の町、俺の県だけに起きているイレギュラーな現象ではない。日本全体・世界の主要国で起きている問題だ。婚活支援だの移住促進で解決するレベルの話ではない。だがそういう視点を持つ人は俺の町にいるのだろうか…。

 

 少し酔ってきた友人はさらに続ける。お前の町にあった地銀の支店、最近なくなったろという。そのとおりだ、駅前にあった支店が撤退した。町の人は撤退しないように銀行に頼めと市長に言っていた。撤退すると見捨てたのかと怒っていた。

 「お前の町の人口はかなりのスピードで減っているみたいだな。悪いけどお前の町に支店をおくメリットや収益が期待できなくなのだろう。でもな、それだけはない」

 「銀行も変わるぞ。お金を降ろすとか、ローンの相談をするとか、そういうのはネットでできる。これからはネット銀行が中心になる。それを見越して銀行は支店や社員を減らしている。」

 「俺は今、新宿支店で法人融資を担当している。今のところは安泰だ。だがな、別の支店に配属になって、その支店が撤退となったら俺もリストラや出向の対象になる可能性がある。だから俺も本部とか海外とか目指して頑張っているんだ。娘が中高一貫の私立に行きたいって言うしな」

 

 そうか、となると30代で海外勤務を経て本部にいるSは、かなり優秀ということだ。