大学時代の友人と会うことになった。

 久しぶりに高田馬場で電車を降りて、懐かしい居酒屋に行き、俺も含めた4人で飲んだ。ゼミが一緒だったメンバーだ。

 そこで「S」の話を聞いた。一人が同じ銀行に勤めていたのだ。偶然と言うのは恐ろしい。

 

 友人は、Sと新人研修で同じチームだったそうだ。Sは数字に強く、帳簿の間違いや不正を見抜き、おかげで友人のチームは全体の中でもかなり優秀なチームとして表彰されたそうだ。

 研修が終わると配属が伝えられる。

 優秀な人間は都内の配属になり、その中でも特に優秀なのは本部か新宿などの大店に行く。Sも本部か都内の大店と思われていた。しかし、意外なことに都内ではあるが大田区の支店配属となった。友人が言うには、京大だったからだと思うとのことだ。本部や大店には東大・一橋・慶応出身が配属されたらしい。友人も、俺は早稲田だったから練馬区の支店だったという。

 

 Sは今どうしているか知っているかと問うと、海外勤務になったという答えが返ってきた。先月からニューヨーク支店にいるらしい。出世・出世・大出世と友人は言う。海外における新規プロジェクトのスタッフに選ばれたらしい。しかもスタッフの中では一番若い。少しドロドロした話としては、新規プロジェクトに東大・一橋・慶応出身者は選ばれない。なぜなら失敗すると出世の階段を外れることになるから。だから、それ以外の大学出身で飛び切り優秀な奴が新規プロジェクトの担当になる。

 そして、成功への道筋が見えたら帰国して本部所属となる。失敗だったら帰国しないか、帰国しても地方支店に飛ばされることになる。

 

 成功して帰国したらどうなるのかと聞くと、海外勤務は出世へのパスポートだから、おそらくは本部の企画部とかそういうところで働くことになる。頭取とか役員とかにはなれないと思うが、本部の部長クラスは支店長よりも上だよ。とのこと。リーマンショックとかあったけど、そんなことは給与に影響しない世界で暮らしているらしい。海外勤務だと30歳で年収1千万円越えだよ、すげーなーと友人は言う。

 

 4人で2次会まで飲んで解散した。

 ちなみに、俺以外は「旧財閥系銀行」「旧財閥系不動産企業」「運輸企業の日本最大手」の社員。そして俺は、役者兼何でも屋のフリーター。

 そのことを恥じる気持ちはない。だが、このままでは…とも思う。飢え死に覚悟で役者一本に絞るか、脚本工房のゴーストライターで生き抜くと割り切るか、実家に戻って長男の役割を果たすか…。