大学4年生になった。卒業後のことをそろそろ考えないといけない。

 周囲を見ると、大学3年生から就職活動をはじめ、すでに内定をもらっている者も多い。一方、演劇サークルの同期は就職という現実的なことよりも、次の公演のことばかり考えている。そもそも4年で卒業できそうなのは、俺を含めて数人しかいない。

 市会議員である父からは、地元のJAや市役所を受験しろと言われている。

 受験=合格ということらしい。

 

 そんな時、ある先輩から映画出演の話が舞い込んだ。

 もちろん、脇役で出演シーンも少ないが、役名もセリフもある。

 なぜ俺に…と先輩に聞くと、だってお前頑張ってきたじゃないかと喫茶店で言われ、少し泣いた。

 俺が撮影に参加したのは4日間で、そのほとんどが待ち時間だった。それでも、映画製作の現場をじっくり観察できたのは面白かった。途中体調を悪くしたスタッフに代わって大道具をいじったり、弁当を取りに行ったりもした。すると4日目に先輩が、食事しか出せないけどよかったら最後まで現場の手伝いをしてくれないかと言われ、喜んで参加した。

 これが転機だった。

 

 予算の少ない自主映画などに呼ばれるようになった。脇役兼雑用係である。

 そこで知り合った人からまた電話がくる。

 オーディション参加の連絡も入るようになった。

 

 そして、テレビドラマの出演が決まった。

 アイドルが主演の深夜ドラマ、学園物で俺は新任教師の役。

 と言っても、シーンのほとんどは職員室で座っているか、アイドルが受けている授業のシーンに先生役でちょっと映るだけ。役名はあるがセリフは少ない。それでも、全11話のほとんどに出演シーンがあり、タイトルロールに名前も出る。

 何より、俺の地元の田舎町でも放送がある(2か月遅れだけど)。

 

 そのタイミングで、俺は一度地元に帰り、父にもう少し東京にいさせてくれと頼んだ。脇役中の脇役で出演時間は十数秒でも、テレビに出るということは田舎町では結構な話題になる。そうなれば、俺を無理やり地元に戻すことは難しいはずだ。

 最後にこう言った。

 役者として目が出なければ地元に戻る。JAでも市役所でも受ける。自力で合格する。

 

 そして俺は早稲田を卒業した。4月からはフリーターである。