退位問題に漂うモヤモヤの正体 | 山本洋一ブログ とことん正論

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元日経新聞記者が政治、経済問題の裏側を解説!

 昨年来、ずっと胸にひっかかり続けている政治課題がある。天皇陛下の退位問題だ。有識者会議の議論を経て通常国会に提出されるのは、一時しのぎの特例法となりそうだが、我々日本人はこの問題をこれで終わらせてはならない。「この国のかたち」に直結する問題だからである。

 

 初めに断っておくが、この問題について、際立った主張や考えがあるわけではない。なんなら自分の中の答えが見つからず、モヤモヤしていたくらいだ。今朝の朝日新聞に載ったある論考を読んで、そのモヤモヤが少しだけすっきりとした。

 

 佐伯啓思京大名誉教授による「(異論のススメ)退位問題に思う 天皇制と民主主義の矛盾」。通り一遍の記事やインタビューが多い中、この問題の神髄にズバッと切り込んだ貴重な記事である。

 

 朝日新聞デジタルの無料会員になれば全文を読むことができるので、興味のある方はぜひそちらをお勧めしたいが、ここでは簡単に紹介したい。

 

http://www.asahi.com/articles/DA3S12734747.html

 

 佐伯氏は「退位を可能とする方向で、天皇制度を確かな形で存続させることこそが肝要」だと述べたうえで、「『天皇制度を確かな形で存続させること』が、ある意味ではたいへんに難しいのであり、そこにきわめて重要な問題が潜んでいる」と指摘する。

 

 戦後日本の「国のかたち」は民主主義だが、「天皇の位置は明らかに民主主義の原理からは外れている」からである。皇室には表現の自由も選挙権も信教の自由もない。つまり戦後日本が憲法に定める基本的人権がないのだ。

 

 日本の天皇制度は世襲で、聖性を帯びており、政治的な権威を代表するものの権力の行使には関与しないという点で、世界に類を見ない特殊な制度。だからこそ、佐伯氏は「天皇を抱く日本の歴史的な『国のかたち』と戦後の民主主義や西洋流の立憲主義の間に齟齬が生じるのは当然」という。

 

そして「この齟齬を全面的に解決する方策はないが、天皇の退位問題を通してわれわれが見るべきものは、こうした困難な事情ではなかろうか」と指摘する。

 

私の頭のモヤモヤとは、まさしくこの齟齬のことであった。学校で習った「戦後日本の民主主義」と天皇制度がどうにもマッチしてこなかったのだが、それは当然のことだった。この齟齬をいつまでも放置していたら、私のような人間がどんどん増えていき、天皇制の根幹を揺るがしかねない。

 

思い切って持論を述べることすらできない政治家に、この課題を任せきりにするのは無理だ。かといって一部の専門家だけで「この国のかたち」を決めるべきではない。この課題を投げかけた陛下がご健在のうちに、国民的議論とすべきではないだろうか。