ふるさと納税をバラマキで終わらせるな | 山本洋一ブログ とことん正論

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元日経新聞記者が政治、経済問題の裏側を解説!

 安倍政権は来春の統一地方選を意識し、秋以降の重点政策に「地方創生」を掲げています。中でも菅義偉官房長官ら政権中枢が注目しているのが「ふるさと納税」。国民にわかりやすく、地方重視をアピールするには便利な制度ですが、今のままではただのバラマキで終わりかねません。


 ふるさと納税は菅官房長官が第一次安倍政権で総務大臣だった時に提案し、2008年から始まった制度。地方住民税は普通は自分の住んでいる自治体に納めますが、この制度を使えば納付先を自由に選べます。ふるさとと銘打っていますが、出身地でなくても構いません。


 例えば私が東京に住んでいながら、出身地である名古屋や、かつて勤務して好きだった大阪に納税したいと思った場合。名古屋市と大阪市に1万円ずつ寄付すると、計2万円から2000円を引いた額、つまり18000円が所得税と住民税から控除されます。


 寄付という間接的なやり方ではありますが、実質的には自分の所在地に納めるはずの住民税を、好きな自治体に納めることができるのです。いくら寄付しても構いませんが、控除には上限が決まっており、例えば独身で給与所得が年間500万円なら34000円、夫婦子二人で年収1000万円なら79000円までとなっています。


※詳細は総務省HPでご確認ください

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/080430_2_kojin.html


 ふるさと納税は税制における「受益と負担」の原則からは外れていますが、一定の範囲内で活用することには賛成です。ふるさとに帰ることはできないが、なんとか貢献したいという思いを生かすことができますし、自治体の創意工夫も引き出すことができます。しかし今、その自治体の創意工夫は間違った方向に突き進んでいます。


 名古屋市の南側に位置する知多半島の美浜町。この町に3万円以上寄付すると、9000円分の旅館宿泊補助券や特産品詰め合わせがプレゼントされます。


 仮に東京に住んでいる人がふるさと納税制度を使って美浜町に3万円寄付した場合、2000円をひいた28000円が所得税や住民税から控除されます。そのうえで9000円分のプレゼントを受け取れば支払額は3万円で、受け取るのは28000円+9000円=37000円。つまり差し引き7000円の得になります。


 なんてお得な制度でしょう。人気が高まっているのも理解できます。インターネットで「ふるさと納税」を検索すれば様々なサイトがヒットし、おいしそうな魚介類や農産物が並んでいます。各自治体が税収を増やすためにプレゼントの質と量を競っているからです。


 寄付を受ける自治体にとってみれば当然のことです。美浜町の例でいえば、3万円の寄付を受けて、9000円分のプレゼントを渡せば差し引き21000円の収入増になります。税収不足に悩んでいる自治体からすれば渡りに船。しかし、誰もが得する、そんなうまい話はありません。


 美浜町が21000円分の増収となり、納税者が7000円分得したその裏で、国と東京都が28000円分の減収となっているのです。この例を挙げたはじめに3万円寄付した場合に28000円が控除されると書きましたが、国と東京都にとってはまさにこの分が減収となるのです。


 さらに言うと自治体間(プラス国家)で差し引きゼロとなれば、国全体としてはプラスマイナスゼロですが、美浜町が21000円増収となり、国と東京都が28000円の減収となれば、国家としては7000円のマイナスとなります。もちろんそれは納税者がプレゼントを受け取った分です。


 つまりこの制度は現状、国と東京都など都市部の自治体から、地方の自治体と、一部の高額納税者に現金をばらまいていることと同じなのです。総務省は一昨年、過度なプレゼントに警鐘を鳴らしましたが、状況は何も変わっていません。


 安倍政権は税控除の上限額を倍増する方向で検討しているそうですが、プレゼント競争を放置したままでは、バラマキの規模を二倍に拡大するするだけです。地方の自治体は喜ぶかもしれませんし、統一地方選で与党が有利になるかもしれませんが、国家全体にとってプラスだとは思えません。


 もしこの制度を拡大するのであれば、過度なプレゼント競争を規制し、もっと中身のある創意工夫を促すべきです。控除率も見直さなければなりません。何のための地域創生なのか、それには何が必要なのか。何となく人気だから、地方自治体や納税者が喜ぶからではなく、真面目な議論で結論を出してほしいと思います。