筋の悪い「携帯電話税」 | 山本洋一ブログ とことん正論

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元日経新聞記者が政治、経済問題の裏側を解説!

 与党内でにわかに携帯電話やパチンコに課税する案が浮上しています。名目上は「子どもの安全税確保」などと説明していますが、要は「取りやすいところから取ろう」という発想。実に短絡的で、バランス感覚に欠く「筋の悪い」政策です。


 自民党の有志議員は先月、携帯電話への課税を検討する議員連盟「携帯電話問題懇話会」(会長:中山泰秀衆議院議員)を設立。安全性対策の予算確保を名目に、携帯電話一台当たり数百円を保有者から徴収する方向で検討を始めました。秋までに制度設計を固める方針としています。


 子どもの安全性対策が必要だということは私も認めますが、新たな課税が必要なほど大金が必要なのでしょうか。仮に新税が実現してその財源を安全性対策に充てたとして、何に使うのでしょうか。政府が支出先に困り、無駄な広告費などに消えていくという未来図が想像つきます。


 そもそも、携帯電話にはすでに「電波利用料」という名で税金が課せられています。携帯電話の利用明細には書いてないので知らない方も多いと思いますが、携帯を持っている方は一台あたり200円、携帯会社を通じて政府に納めています。


 携帯会社やテレビ局など公共の電波を使う事業者が支払う電波利用料の総額は年間600億~700億円。このうち74%を携帯会社(携帯利用者)が負担しています。テレビ局の負担は7%程度で、一局あたりではキー局でも数億円に過ぎません。


 ところが、支出先の大半は「地デジ対策」など携帯とは関係のない予算。「携帯電話のエリア整備事業」のような携帯電話関連の支出はほんの一部しかありません。安全政策に向けた予算確保が本当に必要ならば、本来はこの電波利用料の中から捻出すべき話です。


 与党の本当の狙いは法人税減税に向けた財源の確保にあります。安倍晋三首相の意向で法人税減税の方針が決まったため、財源の穴を埋めようと財務省や与党税調幹部は必死になっています。


 特定の業種を優遇している租税特別措置を見直すべきだという声は多いですが、経済界が反対。赤字の中小企業に対する課税強化策にも中小企業団体がさっそく反発の声をあげています。取りやすそうなところはどこかーー。そこで今回の携帯やパチンコが浮上したのです。


 先に挙げた議員連盟の設立総会に自民党の税調会長が出席したことが、それを物語っています。政策目的でパチンコへの課税を検討することはありえますが、「取りやすいところから取る」という発想は不適切です。


 永田町や霞が関では、政策を評価する時に「筋がいい」とか「筋が悪い」といった表現を使います。筋が悪い政策の多くは、与党議員の「政治的な判断」によってねじこまれたもの。官僚も渋々お付き合いするものです。


 今回の携帯電話課税も典型的な筋の悪い政策。苦々しい表情をした官僚の顔が目に浮かびます。