内閣人事局が「縦割り」を排除するための方法 | 山本洋一ブログ とことん正論

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元日経新聞記者が政治、経済問題の裏側を解説!

 政府が4日に中央省庁の幹部人事を発表しました。官邸主導で人事を決めるための「内閣人事局」の発足後、初仕事。縦割り行政の排除と女性の積極的登用を目指しましたが、前者は今回、実現できませんでした。日本の国益を害する縦割り行政をどうすれば排除できるのでしょうか。


 内閣人事局の構想が浮上したのは2008年。渡辺喜美公務員制度改革相の下にあった有識者会議が「内閣人事庁」(仮称)の創設を提言したのがはじまりです。


 堺屋太一氏を中心としたこの懇談会は「縦割り行政の弊害を除去し、各府省横断的な人材の育成・活用を行うため」に内閣人事庁を設置。総務省と人事院にまたがる公務員人事に関する機能をすべて移管すべきだと訴えました。当時、担当記者として取材していたのでよく覚えています。


 その後、民主党政権を経て昨年、法律が成立し、今年5月に内閣人事局が発足しました。総務省と人事院の機能を維持するなど一部は骨抜きとなりましたが、まずは公務員制度改革の前進といえます。今回の人事でもアベノミクスの重要政策である女性の積極登用は成功したようです。


 ただ、本来の目的であった縦割り行政の排除はまったく進んでいません。省庁間の交流人事は現状51人ですが、新たな人事でも2人増えて53人になるだけです。これでは縦割りの排除には到底つながりません。


 縦割り行政とは各省庁が自分たちの省庁の都合、つまり「省益」だけを考えて政策を推進すること。国益よりも省益を優先することで、国全体の政策が歪められていくことです。「部分最適」の集合は必ずしも「全体最適」にはならないからです。


 例えばTPP参加を巡って農林水産省は国内農業が打撃を受けGDPが7.9兆円減るとの試算を発表。経済産業省は同時期に、TPPに参加しなければ国内製造業の輸出条件が不利となって10.5兆円GDPが減るという真逆の試算を公表しました。


 農水省は参加に反対する農協とつながり、経産省は参加を求める産業界とつながっているからです。本来ならばこの2省庁が中心に国益のためにどういう交渉をすべきか練るべきなのにもかかわらず、自分たちの役所の「省益」だけを考えて無用な対立を生みだしました。


 背景には日本の中央省庁が採用から退職まで、基本的に一つの省庁で「終身雇用」されるという事情があります。財務省に採用されたら生涯財務省、外務省に採用されたら生涯外務省で過ごします。官僚には「日本政府に努める」という意識はありません。あくまでも財務省の職員であり、外務省の職員なのです。


 ずっと同じ省庁にいれば、その省庁の利益を優先するのは当然です。省益を優先しなければ出世できないからです。縦割りを排除するにはこうした意識を変えさせ、省庁の職員から、日本政府の職員に変えなければなりません。それは「幹部」になってからではもう遅いのです。


 内閣人事局が動かす人事の対象は各省庁の審議官・部長級以上の約600人。人事局の発足以前も局長級以上200人の人事は官邸で決めていましたから、ほとんど増えていません。せめて役所の色に染まってしまう課長級以上に対象を広げるべきです。


 そして「交流人事」という呼び方も変えなければなりません。いずれ出身省庁に帰るという意味が込められているからです。縦割り行政の排除に向けた取り組みは始まったばかり。今回の反省がどう生かされていくか、注目したいと思います。