原則その③ 「データ」が出るまで判断しない | Cの憂鬱

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先の無い高齢者のつぶやきです。Cは、お隣の怖い国、お金、職業などなどの頭文字?、かな。

原則その③ 「データ」が出るまで判断しない 3つ目の原則は、「データが出るまでは判断しない」です 。 これについては、みなさんも関心がある、新型コロナウイルス禍を参考例に説明をしていきたいと思います。 新型コロナウイルスに関連するニュースが最初に日本に入ってきたのは2019年11月の後半で、中国の武漢で奇妙な風邪が流行ってきたということでした。 それから12月の末には「感染防止の観点からすると、正月休みにどんちゃん騒ぎをするのはどうかと思う」というようなことが言われたりもしましたが、まだ大きな問題として認識されてはいませんでした。 そのころ、すでに台湾では国境を封鎖した時期でしたから、きちんと調べればある程度の情報は得られたはずですが、日本に入ってくる情報そのものはすごく少なかったのです。 年が明けた2020年1月18日、日本経済新聞が「今年の春節で、中国から日本への来客を増やすためには、これまでのような爆買い一本でモノを売るということだけを進めるのではなく、コトを売る(例えば、コンサートやスポーツ観戦など)=コト消費にも積極的にならなければいけない」というような記事を出していたように、大半の 人々は緊急事態宣言が出されるほどの一大事になるとは思っていませんでした。 そのような緊張感のない中で、2月3日にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が感染者を抱えて横浜に寄港し、ようやく世間の注目が集まり始めました。 当時、私は新型コロナウイ ルスに関する発言はほとんどしませんでした。なぜなら、データが非常に断片的で、中国の狭い地域に限られていたことがひとつ。そして、毎年流行るコロナウイルス(一般的な風邪の原因のひとつに“ヒトコロナウイルス”があります)との違い、もしくはインフルエンザとの関係、さらにコロナウイルスのひとつであったSARS(約20年前に流行)との関係などがまだわからなかったため、沈黙していたのです。 私は医学者ではありませんが、人体の劣化や病気など基礎医学にかなり近い分野の研究は相当やってきました。しかしそういう知識をもってしても、1月末 ごろにはまだ判断できない部分が大きかったのです。 2月上旬に、最初に病気を警告した武漢の医師がお亡くなりになり、次々と患者数が増え、2月中旬から下旬にかけて中国の医学者たちが英語の論文をどんどん発表しました。 遺伝子解析なども進んできて、2月末には今回の新型コロナウイルスの遺伝子配列なども、アメリカの医学雑誌に掲載されるようになったので、私はこれらを 一所懸命に読み込みました。そして、ようやく新型コロナウイルスに 関する情報がほぼ出揃ってきたので、3月の初めぐらいからテレビやインターネットなどを通じて発言を始めました。 これはけっして私の自慢話ではなく、本書を読むみなさんの参考になると思うのでお話ししています。 テレビに出てくる学者や評論家の多くは、2月に新型コロナウイルスの感染拡大が本格的に始まり、日本にも患者が出始めるとすぐに「大変だ!」「もっとすごいことなる!」と発言していました。この騒動で有名になった女性学者なども現れ、新型コロナウイルスの危険性などを解説していました。 そのころの私は、テレビ番組などで質問を受けたときには必ず「まだデータがはっきりしないので、安易な発言はできません」と答えていました。 これは非常に重要なことです。第1原則の「科学は未来を予測しない」で記したように、科学者は未来を予測するのではなく、データをみて判断するということなのです。 ですから、データが出るまでにいろいろなことを言う人は、その人が信用できるか否かという前に、少なくとも科学的ではないのです。 私は2月の末までは主として中国やアメリカの論文を読み、「今度の新型コロナウイルスは、伝播力はだいたいインフルエンザ 並みだな」「重症化率はインフルエンザよりも少し高いけれども、若い人はほとんど重症化しないので、病気としての悪質性はそれほど強くないな」ということを理解しました。 90歳代などご高齢の方が亡くなることについては(もちろんお亡くなりになるわけですから悪いウイルスなのですが)、誤解を恐れずに言えば、そういうご高齢の方はいずれ何かの病気で亡くなるわけです。 そういうことがいろいろとわかってきたので、私はようやく新型コロナウイルスについて発言するようにしました。3月上旬から発言を開始し、いちばん多かった時期は3月下旬から4月にかけてでした。 それもあって6月ごろになると、多くの方から「今度のコロナウイルスに関する武田先生の発言は非常に正確だった」との声をいただきました。「100% 正確だった」と言ってくださる人もいます。 『フェイクニュースを見破る 武器としての理系思考』武田邦彦 (ビジネス社刊) R060518 P032