『フェイクニュースを見破る 武器としての理系思考』武田邦彦 (ビジネス社刊)
はじめに なぜ「理系思考」が必要なのか?
2020年末、テレビでは連日「新型コロナウイルスが爆発的な感染拡大をしている」と人々に警戒をうながし、その一方で「アメリカやイギリスでワクチンが開発された」と喜ばしいことであるかのように伝えていました。
しかし、これらの言葉にはいくつかのウソ、もしくは誇張やごまかし、間違いが含まれています。なぜなら、これらの多くは「科学的な考え方」すなわち“理系思考”が欠如しているからです。みなさんはお気づきでしょうか?
まず「爆発的な感染拡大」という言葉―――、これは明らかに誇張です。
そもそも「爆発的」というのはいったい何人ぐらいからのことを言うのか。
たとえば、毎年のインフルエンザの1月初旬の状態をみてみると、1週間で100万人の患者が出ています。ところが、これに対して「爆発的」という言葉が使われることはまずありません。
一方、今回の新型コロナウイルスはそれと比べるとものすごく少ない。1週間で新規感染者が2万人弱なのですから桁が2つも異なります。それを「爆発的」というワードを使うことで人々を脅しています。このようなやり方は適切ではないでしょう。
「ウイルス」は世の中からなくならない
また、「冬になって第3波が到来した」とテレビや新聞などが報道しますが、これもまったく根拠のない言い方です。
たしかに、第1波と言われる今年3月、4月よりも、第2波と言われる7月、8月のほうが感染者数は多く、これは日本やヨーロッパでも同様で3、4倍になっています。しかし、死者数となると第2波のほうがずっと少なくなりました。
実は、死者が少なくなるのは当然のことなのです。
通常、ウイルスというのはどんどん変異をしていきます。現在観測されている「変異株」は、5000種以上になっています。
仮に、その中で毒性が「最強のウイルス種」と「最弱のウイルス種」がそれぞれ同じだけ人々に感染していったとすると、当然、「最強」に罹った人は亡くなる確率が高く、「最弱」に罹った人はほとんど亡くなりません。
すると、だんだん「最強」より「最弱」のウイルス種のほうが多くなっていきます。
なぜなら、最強のウイルス種は宿主を殺してしまうからです。ウイルスは人間の細胞の中でしか生きていけませんから、そこで絶えてしまうのです。
このように、「弱いほうが残っていく」ということを繰り返すので、ウイルスはだんだん毒性が弱くなっていきます。死亡者の高(たか)でみたときに、果たして7月、8月は第2波と言えるのか。そこからして定義づけが明確にはなされていません。
さらに、「ウイルスのある状況が果たして異常なのか」ということも一考せねばなりません。現在は多くの人が新型コロナウイルスを目の敵のようにしていますが、それが出てきた生態系としての背景というものがあるからです。
人間というのは、人間という種の単体だけでは生きていけません。ウイルスも然り、細菌も然り、また水銀のような有害とされる元素なども、私たちの身体には必要なのです。つまり、私たちは「ウイルスや細菌と一緒に生きている」のです。
そういう科学的な考え方で、新型コロナウイルスとどうつき合うべきかを考察していかなければ、自然界からたい へんなしっぺ返しがくる可能性があるのです。
『フェイクニュースを見破る 武器としての理系思考』武田邦彦 (ビジネス社刊) R060511 P005